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交響曲第8番 ハ短調 作品65

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指揮者オーケストラ録音年レーベル番号備考評価
ASHKENAZY, VladimirRoyal Philharmonic Orchestra1991Decca436 763-2
BARSHAI, RudolfBournemouth Symphony Orchestra1985EMI7243 5 87034 2 9EMI-CDM 7 64719 2(3rd mov. only)
BARSHAI, RudolfWDR Sinfonieorchester1994-5Brilliant6324Brilliant-8128
BERGLUND, PaavoBerliner Philharmoniker2001Tresure of the EarthTOCE2027CD-R, Live(17 May)
BERGLUND, PaavoBerliner Philharmoniker2001TestamentSBT2 1500Live(18 May)
BERGLUND, PaavoRussian National Orchestra2005PentaTonePTC 5186 084SACD
BOREYKO, AndreyRadio-Sinfonieorchester Stuttgart des SWR2016SWR musicSWR19037CD
BRAITHWAITE, NicholasAdelaide Symphony Orchestra1988ABC Classics426 510-2
BYCHKOV, SemyonBerliner Philharmoniker1990Philips432 090-2
BYCHKOV, SemyonWDR Sinfonieorchester Köln2001AvieAV 0043
CAETANI, OlegOrchestra Sinfonica di Milano Giuseppe Verdi2004Arts47704-8SACD, Live(Oct.)
DEPREIST, JamesHelsinki Philharmonic Orchestra1991OndineODE 775-2
FEDOSEEV, VladimirMoscow Radio Symphony Orchestra1985MelodiyaSUCD 10-00240Live(5 May)
FEDOSEEV, VladimirMoscow Radio Symphony Orchestra1999ReliefCR 991056Live
GAUK, AlexanderMoscow Radio Symphony Orchestra1959RevelationRV10061
GERGIEV, ValeryKirov Orchestra1994Philips446 062-2Philips-470 841-2
GERGIEV, ValeryBerliner Philharmoniker1995Passion & ConcentrationPACO 1001CD-R, Live(May)
GERGIEV, ValeryMariinsky Orchestra2013MariinskyMAR0525SACD
HAITINK, BernardConcertgebouw Orchestra, Amsterdam1983LondonPOCL-9255/66
INBAL, EliahuWiener Symphoniker1991DenonCOCO-78910
INOUE, MichiyoshiNew Japan Philharmonic2007Octavia RecordsOVCL00777Live(9 Dec.)
JANSONS, ArvidRundfunk-Sinfonieorchester Berlin1981WeitblickSSS0147-2
JANSONS, MarissPittsburgh Symphony Orchestra2001EMI7243 5 57176 2 7Live(9-11 Feb.), with Reharsal.
JÄRVI, NeemeScottish National Orchestra1989ChandosCHAN 8757
JORDANIA, VakhtangRussian Federal Orchestra2003Angelok1CD-9932
KATS, ArnoldNovosibirsk Philharmonic Orchestra1996Arte Nova74321 51628 2
KITAENKO, DmitriGürzenich-Orchester Köln2003Capriccio71 029SACD, Live(28 June - 2 July)
KOFMAN, RomanBeethoven Orchestra Bonn2004MDG337 1204-2
KONDRASHIN, KirilMoscow Philharmonic Symphony Orchestra1961VictorVICC-40094/103Melodiya-MEL CD 10 01065
KONDRASHIN, KirilMoscow Philharmonic Symphony Orchestra1967AltusALT067Live(20 Apr.)
KONDRASHIN, KirilOrchestre National de l'ORTF1969AltusALT309Live(29 Jan.)
KONDRASHIN, KirilMoscow Philharmonic Symphony Orchestra1969PragaPR 250 040Live(29 Sept.)
KOUSSEVITZKY, SergeBoston Symphony Orchestra1945BiddulphWHL 0451st mov. only.
LEVI, YoelAtlanta Symphony Orchestra1991TelarcCD-80291
LITTON, AndrewDallas Symphony Orchestra1996DelosDE 3204
MRAVINSKY, EvgenyLeningrad Philharmonic Orchestra1947VictorVICC-40118/23
MRAVINSKY, EvgenyLeningrad Philharmonic Orchestra1960BBCBBCL 4002-2Live(23 Sept.)
MRAVINSKY, EvgenyLeningrad Philharmonic Orchestra1961DreamlifeDLCA-7003Live(12 Feb.)
MRAVINSKY, EvgenyLeningrad Philharmonic Orchestra1961BMG(J)BVCX-8024/7Live(25 Feb.)
MRAVINSKY, EvgenyLeningrad Philharmonic Orchestra1976Scorascoracd012Live(31 Jan.)
MRAVINSKY, EvgenyLeningrad Philharmonic Orchestra1982Philips422442-2PHLive(27 or 28 Mar.), Russian Disc-RD CD 10 917, Icone-ICN-9411-2, Philips-PROA-31, Regis-RRC 1250
NOSEDA, GianandreaLondon Symphony Orchestra2018LSOLSO0822Live(8 Apr.), SACD
OSKAMP, GerardBelarusian State Symphony Orchestra
ErasmusWVH143Live
PETRENKO, VasilyRoyal Liverpool Philharmonic Orchestra2009Naxos8.572392Naxos-NYCC-27263 (3rd mov.)
PONNELLE, Pierre-DominiqueStaatsphilharmonie Minsk1996RCA74321 56258 2
PREVIN, AndréLondon Symphony Orchestra1973EMI7243 5 65521 2 8
PREVIN, AndréLondon Symphony Orchestra1992DG437 819-2
RODZINSKI, ArturNew York Philharmonic1944ASdiscAS 538Live(15 Oct.), Archipel-ARPCD 0127
ROSTROPOVICH, MstislavNational Symphony Orchestra1991Teldec9031-74719-2EMI-7243 5 67807 2 9
ROSTROPOVICH, MstislavLondon Symphony Orchestra2004LSOLSO0060Live(3-4 Nov.)
ROZHDESTVENSKY, GennadiLondon Philharmonic Orchestra1983London Philharmonic OrchestraLPO-0069Live(30 Oct.)
ROZHDESTVENSKY, GennadiUSSR Ministry of Culture Symphony Orchestra1984VictorVICC-40001/11Melodiya-MCD 143
SANDERLING, KurtBerliner Sinfonie-Orchester1976Deutsche Schallplatten32TC-77
SANDERLING, KurtSwedish Radio Symphony Orchestra1994WeitblickSSS0135-2Live(21 Oct.)
SHOSTAKOVICH, MaximLondon Symphony Orchestra1991Collins12712
SHOSTAKOVICH, MaximPrague Symphony Orchestra2003SupraphonSU 3890-2Live(7-8 Apr.)
SIMONOV, YuriSlovenian Philharmonic Orchestra1996The Slovenian PhilharmonicSF 997029Live(29 Feb. & 1 Mar.)
SLATKIN, LeonardSaint Louis Symphony Orchestra1988RCA60145-2-RC
SLOVÁK, LadislavCzech-Slovak Radio Symphony Orchestra1988Naxos8.550628
SOLTI, GeorgChicago Symphony Orchestra1989Decca425 675-2Live(4-6 Feb.)
SVETLANOV, EvgenyLondon Symphony Orchestra1979BBCBBCL 4189-2Live(30 Oct.)
WIGGLESWORTH, MarkNetherlands Radio Philharmonic Orchestra2004BISBIS-SACD-1483SACD

V. Ashkenazy/Royal Philharmonic Orchestra
第1楽章: 24'58"
第2楽章: 5'57"
第3楽章: 6'11"
第4楽章: 9'36"
第5楽章: 13'48" 
悪くはない。特に傑出した内容を持っているわけではないが、よく整えられた音響はそれだけでもこの曲の魅力をある程度は伝えている。オーケストラも健闘している。
R. Barshai/Bournemouth Symphony Orchestra
第1楽章: 25'56"
第2楽章: 6'44"
第3楽章: 6'37"
第4楽章: 9'01"
第5楽章: 14'03" 
全体的には決して悪くない雰囲気で、特に切実な弦楽器の歌には心動かされる瞬間も少なくない。ただ、オーケストラのパワー不足は否めず、ダイナミックレンジの狭さが作品のスケール感を表現する上での制約になってしまっている。
R. Barshai/WDR Sinfonieorchester
第1楽章: 27'27"
第2楽章: 6'42"
第3楽章: 6'28"
第4楽章: 9'38"
第5楽章: 13'45" 
楽譜に対して真摯な姿勢が、この傑作の真価を丁寧に描き出した好演。恣意的な味付けがない分、作品の凄みが直に伝わってくる。オーケストラも健闘しており、不満を感じる部分は少ない。
P. Berglund/Berliner Philharmoniker
第1楽章: 27'42"
第2楽章: 6'47"
第3楽章: 6'58"
第4楽章: 10'29"
第5楽章: 15'34" 
何より、ベルリンPOの威力に圧倒させられる。豪奢なふくよかさがいささかショスタコーヴィチらしからぬようにも感じられるが、そうした趣味の範疇をはるかに越えた凄みが、この演奏にはある。ベリルンドの解釈は極めて真摯なもの。とりたてて個性を感じさせはしないが、それだけにショスタコーヴィチの音楽とベルリンPOの魅力がストレートに表現されている。
P. Berglund/Berliner Philharmoniker
第1楽章: 27'10"
第2楽章: 6'29"
第3楽章: 6'59"
第4楽章: 10'14"
第5楽章: 15'31" 
当然ながら、テンポなどの基本的な作りは前日の録音とほぼ同一。しかし、オーケストラの威力が前面に押し出された前日の録音に比べると、かなり大人しい印象が否めない。恐らくは、音にエネルギーが感じられない録音のせいだろう。ベリルンドが作り上げている音楽が悠揚とした叙情的なものだけに、こうなると緊張感のない弛んだ演奏にしか聴こえなくなってしまうのが残念である。
P. Berglund/Russian National Orchestra
第1楽章: 27'44"
第2楽章: 6'34"
第3楽章: 6'48"
第4楽章: 9'39"
第5楽章: 15'33" 
ベルリンPO盤に比べると、スタジオ録音ということも影響しているのか、随分とおとなしい演奏である。ゆったりとした抒情的な音楽作りは好ましいものの、全体に弛緩した感じが否めない。緊張感や迫力だけではなく、表情や音楽の彫りの深さという点でも、ベルリンPO盤に劣る。
A. Boreyko/Radio-Sinfonieorchester Stuttgart des SWR
第1楽章: 28'29"
第2楽章: 6'50"
第3楽章: 6'42"
第4楽章: 10'03"
第5楽章: 13'50" 
気負いのないしなやかで、それでいて深い哀しみを湛えた冒頭から、この作品に対する時代性の手垢を一掃したような演奏が繰り広げられる。聴き手が期待する壮大で劇的なクライマックスも、阿鼻叫喚とは一線を画す。第2楽章や第3楽章も無慈悲さとは無縁で、人間的な血の通った聴きやすさは傑出している。第1楽章と第5楽章に共通する雰囲気が感じ取れるのも面白い。
N. Braithwaite/Adelaide Symphony Orchestra
第1楽章: 26'46"
第2楽章: 6'20"
第3楽章: 5'42"
第4楽章: 12'22"
第5楽章: 16'06" 
掘り出し物的な佳演。すっきりと整えられた響きの中に、真摯で力のある音楽が繰り広げられる。第2楽章は散漫な出来だが、それ以外は集中力に満ちた共感溢れる演奏に仕上がっている。
S. Bychkov/Berliner Philharmoniker
第1楽章: 25'01"
第2楽章: 5'59"
第3楽章: 6'24"
第4楽章: 10'25"
第5楽章: 14'43" 
機能的には十分に満足できる演奏。腰の軽い響きに好みは分かれるだろうが、巧いことは間違いない。しかしながら、聴き手に訴えかけるような内容はほとんどない。聴いている間はそれなり快楽を感じるものの、聴き終えた後の充実感には乏しい。美しいが空虚な演奏。
S. Bychkov/WDR Sinfonieorchester Köln
第1楽章: 25'48"
第2楽章: 6'20"
第3楽章: 6'00"
第4楽章: 9'10"
第5楽章: 14'23" 
旧盤と比べると、この録音はビシュコフの進境を示す好演となっている。整然とまとめられた丁寧な演奏。少々軟派な雰囲気がないわけでもないが、歌うべきところはしっかりと歌い込むことで、作品の持つ晦渋さを巧妙に避けている。ただ、この作品にはショスタコーヴィチの“アク”が強く反映されているだけに、若干物足りなさは残る。
O. Caetani/Orchestra Sinfonica di Milano Giuseppe Verdi
第1楽章: 20'36"
第2楽章: 5'45"
第3楽章: 6'02"
第4楽章: 7'40"
第5楽章: 12'20" 
第2楽章と第3楽章以外のテンポが猛烈に速い。だが、聴こえてくる音楽の中にこの快速テンポの必然性はあまり感じられない。むしろ作品が本来持っているテンポ感とずれているために、楽曲の展開が有する劇性が損なわれている。音楽の流れに感情の起伏がついていかないような、そんな違和感が残る。
J. DePreist/Helsinki Philharmonic Orchestra
第1楽章: 25'13"
第2楽章: 6'34"
第3楽章: 6'25"
第4楽章: 10'02"
第5楽章: 13'52" 
丁寧にまとめられた、いわゆる“純音楽的”な演奏。無理矢理に絶叫したり深刻ぶったりすることのないスマートな仕上がりに、デプリーストのセンスの良さが窺える。決して熱い演奏ではないのだが、無感動な訳ではない。個人的には、こういう演奏にはどこか物足りなさを覚えるのだが、逆に好む人も少なくないだろう。
V. Fedoseev/Moscow Radio Symphony Orchestra
Total Time: 59'52" 
典型的なモスクワ放送響サウンドの演奏。第1楽章展開部の目一杯レガートをかけた金管楽器の咆哮は、ファンにはたまらないものだろう。しかし、ライヴということもあるのか、演奏はどことなく集中力を欠いた落ち着かないもので、特に弱奏部での表現力に不満が残る。各楽器の名技が披露される第2楽章や第3楽章も、妙に単調で退屈だ。この大曲を演奏するためのハードは整っているがまだまだソフトは整備されていない、とでもいうところだろうか。
V. Fedoseev/Moscow Radio Symphony Orchestra
第1楽章: 24'38"
第2楽章: 6'30"
第3楽章: 6'33"
第4楽章: 8'04"
第5楽章: 14'42" 
このコンビの美質が十二分に発揮された、流麗かつ色彩感に溢れた秀演。特に、管楽器と打楽器の名義は圧倒的。交響曲第10番の新盤同様、抒情的な側面が強調された、実に人間臭い仕上がりになっている。深い味わいにも事欠かず、個性的な注目すべき演奏ということになるだろう。ただ、この作品にはもっと非人間的な冷たさや凶暴さが欲しいところ。筆者には、その点が物足りない。
A. Gauk/Moscow Radio Symphony Orchestra
第1楽章: 26'17"
第2楽章: 5'56"
第3〜5楽章: 28'01" 
ロシアン・サウンド全開の、お好きな方にはたまらない演奏。とはいえ、いくらなんでもアンサンブルが荒すぎる。音楽的な掘り下げはごく標準的なものだが、録音も悪いためにそれを十分に味わうことができない。一般的にはあまり薦められない。
V. Gergiev/Kirov Orchestra
第1楽章: 25'33"
第2楽章: 5'56"
第3楽章: 6'13"
第4楽章: 10'48"
第5楽章: 14'37" 
しなやかな流れが特徴的な演奏。もちろん、力強い響きにも不足していない。しかしながら、音楽の訴求力は意外に弱い。表面的な仕上げは十分及第点に達しているのだが、複雑な内容を表現するところまでは達していない。このコンビとしてはやや不調な部類に入る演奏だろう。
V. Gergiev/Berliner Philharmoniker
第1楽章: 25'35"
第2楽章: 5'45"
第3楽章: 5'53"
第4楽章: 10'22"
第5楽章: 12'51" 
正規盤との間に解釈の大きな違いはない。オーケストラの機能については全く不満はなく、イングリッシュホルンのソロなどには惚れ惚れとする。また、ライヴゆえか全体を貫く緊張感も正規盤を凌駕する。ただ、録音状態が悪く、大きな音飛びやノイズが多いことから、通常の鑑賞用として薦められるものではない。
V. Gergiev/Mariinsky Orchestra
第1楽章: 28'04"
第2楽章: 6'03"
第3楽章: 6'14"
第4楽章: 9'57"
第5楽章: 15'20" 
とりわけ第1楽章の遅さが際立つ、それでいて表現意欲の密度が高い、充実した秀演。ダイナミックレンジは非常に広いが、そこには常に余裕があり、決して力任せに濁ったり弱々しく響きが死ぬこともなく、最良の意味での流麗さが保たれている。それゆえに野性的な慟哭よりも、幻想的な響きの移ろいに耳を奪われる。この作品を知らない聴き手にとっては聴取の焦点を絞りづらい解釈かもしれないが、まさにそのことこそが、この作品に内在する複雑な諸相を描出している証左であり、ゲールギエフの進境を示すものであろう。
B. Haitink/Concertgebouw Orchestra, Amsterdam
第1楽章: 25'56"
第2楽章: 6'14"
第3楽章: 5'57"
第4楽章: 9'03"
第5楽章: 14'35" 
クセのない、蒸留水のような演奏。音楽の流れも自然だし、曲の構成感もしっかりと捉えられているのだが、今一つ心からの共感が感じられない。響きは大変美しいのだが、この曲は単なる美しさだけでは描ききれない“軋み”が表現されていないと魅力が損なわれてしまう。和声を聴きやすいように整えたこの演奏は、その領域に踏み込むことを意識的に避けているような感じがする。
E. Inbal/Wiener Symphoniker
第1楽章: 28'01"
第2楽章: 6'34"
第3楽章: 6'52"
第4楽章: 10'00"
第5楽章: 16'00" 
丁寧で美しい感触の演奏。ソツのない解釈で、まずは安心して全曲を聴き通すことができる。まろやかで落ち着いた響きはオーケストラの特性だろうが、この作品に適しているかどうかは意見の分かれるところだろう。個人的には、単に整った演奏という以上の感想はない。
井上道義/新日本フィルハーモニー交響楽団
第1楽章: 25'22"
第2楽章: 6'50"
第3楽章: 6'16"
第4楽章: 9'48"
第5楽章: 14'40" 
しなやかでスマートな演奏だが、それは大音響に溺れないというだけでなく、強奏と強奏との狭間にひっそりと存在する弱奏の美しさにこそクライマックスがあるという姿勢の現れのように感じられる。とりわけ第4楽章の人間的な美しさは、筆舌に尽くし難い。第5楽章の入りがここまで自然な演奏も珍しい。
A. Jansons/Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin
第1楽章: 28'11"
第2楽章: 6'33"
第3楽章: 6'32"
第4楽章: 11'18"
第5楽章: 13'44" 
奇を衒うことのない端正な音楽作りにその美質があるアルヴィド・ヤーンソンスによるこの演奏は、ドイツのオーケストラということもあってか、その個性が強く意識される格調の高い立派な演奏。ショスタコーヴィチ特有の息の長い劇的構成を適正に把握したアルヴィドの手綱捌きは、巨大でありながらも長大とは感じさせない密度の濃い音楽の運びを実現している一方で、堅実な解釈の積み重ねによって細部の説得力も決してないがしろにされていない。第4楽章以降の静謐の中に強い意志を持った感情の大きなうねりが心を打つ。ただ、オーケストラの響き故にロシア色が後退しているせいか、全体に地味な印象は否めない。
M. Jansons/Pittsburgh Symphony Orchestra
第1楽章: 24'29"
第2楽章: 6'27"
第3楽章: 6'20"
第4楽章: 10'02"
第5楽章: 14'59" 
ヤーンソンスらしい、堅実にまとめられた好演。ただ、音楽の内容自体はごく平凡なもので、他の名演と肩を並べる程のレヴェルには達していない。オーケストラも管楽器の音程がそれほど良くなく、技術的にも限界を超えている感じがする。指揮者とオーケストラがミスマッチである感は否めない。
N. Järvi/Scottish National Orchestra
第1楽章: 26'27"
第2楽章: 6'35"
第3楽章: 5'56"
第4楽章: 9'52"
第5楽章: 14'28" 
ややスマートながら力感に満ちた好演。テンポ設定や音色の生かし方など、模範的な演奏に仕上がっている。録音の影響もあるのか全体に華やかな響きになっているが、作品を楽しむという意味においてはむしろ万人受けするものと言えるだろう。ただ、第4楽章のような部分での深みには欠けるので、全曲を通して聴いた時の感銘はあまり大きくはない。
V. Jordania/Russian Federal Orchestra
第1楽章: 23'58"
第2楽章: 6'08"
第3楽章: 6'07"
第4楽章: 7'48"
第5楽章: 13'58" 
極端なほどに抒情的な音楽作りが特徴的。第3楽章以外は、徹底して響きの爆発を避けているのではないかと思えるほど。意図としてはよくわかるのだが、やはり単調さは否めない。せっかくロシアのオーケストラで演奏しているにもかかわらず、その魅力はほとんど感じられない(もっとも、技術的にそれほど巧い団体ではないが)。物足りなさが残る仕上がり。
A. Kats/Novosibirsk Philharmonic Orchestra
第1楽章: 24'48"
第2楽章: 6'30"
第3楽章: 5'56"
第4楽章: 11'11"
第5楽章: 14'20" 
真摯な演奏だが、全体に音の力が感じられない。オーケストラの技量の故なのか、録音の雰囲気に問題があるのかは判断できないが、非常に地味な仕上がりで、物足りなさが残る。
D. Kitaenko/Gürzenich-Orchester Köln
第1楽章: 29'38"
第2楽章: 7'02"
第3楽章: 6'21"
第4楽章: 11'10"
第5楽章: 15'08" 
残念ながら、今一つ冴えない演奏。この全集がリリースされる前に唯一単独で出ていた演奏だが、他の曲に比べると明らかに音のカロリーが低い。キタエンコの真面目な解釈自体は悪くないのだが、それが説得力を持つ響きにまでは昇華していない。作品の劇性がしっかりと捉えられていないのか、音楽の焦点が定まりきらない印象。
R. Kofman/Beethoven Orchestra Bonn
第1楽章: 30'08"
第2楽章: 6'29"
第3楽章: 6'52"
第4楽章: 11'01"
第5楽章: 16'14" 
端正で丁寧な音作りと、楽曲に対する真摯な取り組みは立派なもの。テンポ設定や息の長い盛り上げなど、全体的に的確で模範的な解釈がなされていると言って構わないだろう。ただ、この作品では特にオーケストラの力不足が気になる。弦楽器の厚みが決定的に不足している。逆に、こういう音のまとめ方であれば、金管楽器にはさして不満はない。
K. Kondrashin/Moscow Philharmonic Symphony Orchestra
第1楽章: 24'03"
第2楽章: 5'45"
第3楽章: 5'54"
第4楽章: 8'29"
第5楽章: 12'29" 
異様なカロリーに満ちた演奏。終始凶暴な音響に圧倒され続ける。もちろん、奇を衒った演奏ということではなく、このコンビならではの個性を存分に発揮しながらも素直にスコアに立ち向かっている姿勢が素晴らしい。ただし、凶悪な録音と相まって、聴き通すには尋常ではないエネルギーを要する。万人向けとはいえないだろう。
K. Kondrashin/Moscow Philharmonic Symphony Orchestra
第1楽章: 21'48"
第2楽章: 5'32"
第3楽章: 5'36"
第4楽章: 6'31"
第5楽章: 12'41" 
一ヶ月近くに及ぶ過密スケジュールで行われた日本公演最終日の記録。オーケストラに疲労もあったのだろう。随所でアンサンブルが乱れ、全体的に集中力が持続しない。コンドラーシンの棒も時に強引で、両者の間に戸惑いと、思うようにならないもどかしさとが感じられる。それでも、このコンビならではの“ショスタコーヴィチの音”は健在。雰囲気を楽しむためのディスクといえるだろう。
K. Kondrashin/Orchestre National de l'ORTF
第1楽章: 22'30"
第2楽章: 5'35"
第3楽章: 5'45"
第4楽章: 7'09"
第5楽章: 13'36" 
フランス国立放送管を振ったシャンゼリゼ劇場でのライヴ録音。芝居っ気たっぷりの大柄な音楽、そして全曲を貫く暴力的な集中力は、コンドラーシンの芸術の粋と言っても過言ではないほどの見事さ。終始鳴り響く「ショスタコーヴィチの音」は、これがフランスのオーケストラということを忘れさせる。1960年代後半の放送録音ではあるが、他の3種の音源に比べて音質はかなりまし。コンドラーシンの第8番を聴くならば、本盤がファースト・チョイスとなるだろう。
K. Kondrashin/Moscow Philharmonic Symphony Orchestra
第1楽章: 22'29"
第2楽章: 5'30"
第3楽章: 5'45"
第4楽章: 7'22"
第5楽章: 12'30" 
野生的なまでの迫力に満ちた凄演。冒頭から終始まで全ての音に持てる限りのエネルギーが注ぎ込まれている。テンポをはじめとする曲の解釈は非常に模範的なもので、演奏者の曲に対する共感に感銘を受ける。非常に高カロリーな演奏なので聴いていると疲れないでもないが、聴き手を引き込む力もまた尋常ではない。ライヴ録音のためか、技術的にはやや粗い。
S. Koussevitzky/Boston Symphony Orchestra
第1楽章: 25'57"
第2楽章:  
第3楽章:  
第4楽章:  
第5楽章:   
重厚なテンポでしっかりと歌い込んだ立派な演奏。第1楽章しか収録されていないのが残念(ジャケットには第2楽章と表記されているが間違い)。ただ、録音が非常に悪く、その真価を十分に味わうことができない。
Y. Levi/Atlanta Symphony Orchestra
第1楽章: 26'47"
第2楽章: 6'24"
第3楽章: 6'10"
第4楽章: 11'14"
第5楽章: 13'23" 
スマートに軽く流したような演奏。聴き心地は決して悪くないのだが、心には何も残らない。
A. Litton/Dallas Symphony Orchestra
第1楽章: 23'50"
第2楽章: 5'57"
第3楽章: 5'52"
第4楽章: 9'35"
第5楽章: 14'03" 
音もリズムも軽すぎて、十分な力を持っていない。それを不必要なテンポの揺らしで補おうとするから、より一層スケールが小さくなっている。第3楽章などで荒々しさを表現しようとしている部分は、単に雑にしか聴こえない。
E. Mravinsky/Leningrad Philharmonic Orchestra
第1楽章: 27'09"
第2楽章: 6'46"
第3楽章: 6'33"
第4楽章: 10'38"
第5楽章: 12'41" 
終楽章を除いてムラヴィーンスキイにしてはかなり遅めのテンポが取られている。低音部捉えきっていない録音とあいまって、彼の厳しい響きが徹底しきれていない、ややダれた感じの演奏となってしまっている。オーケストラの技術にもアラが目立ち、ムラヴィーンスキイとしては出来の悪い部類に入る演奏ではないだろうか。
E. Mravinsky/Leningrad Philharmonic Orchestra
第1楽章: 24'40"
第2楽章: 6'17"
第3楽章: 5'53"
第4楽章: 9'29"
第5楽章: 13'30" 
レニングラード・フィルの歴史に残る1960年の海外巡業公演のうち、ロンドンでの演奏会を収録したもの。後年の録音と比較しても、この時点で基本的な解釈はほぼ固まっている。しかし、緊張感あふれるアンサンブルから湧き出る熱気は、他の録音とは異種のものである。確信に満ちた解釈と完璧なアンサンブルが、聴き手をいやが応にも昂奮させずにはおかない。
E. Mravinsky/Leningrad Philharmonic Orchestra
第1楽章: 24'31"
第2楽章: 5'59"
第3〜5楽章: 28'28" 
BBC盤BMG盤と同時期のライヴ録音。当然ながら、両者とよく似た演奏。音楽の仕上がりとしては、この盤が最もコンディションが良いように感じられる。ただ、多少粗い部分もある。録音の悪さが残念。
E. Mravinsky/Leningrad Philharmonic Orchestra
第1楽章: 24'33"
第2楽章: 6'06"
第3楽章: 6'18"
第4楽章: 9'50"
第5楽章: 12'28" 
ロンドンでのライヴ盤とほぼ同じ時期のライヴ録音。ほとばしる熱気という点ではBBC盤に劣るが、逆に緊迫感においてはるかに上回っている。絶頂期のレニングラード・フィルの合奏力はまさに驚異の完璧さで、ムラヴィーンスキイの音楽をより説得力のあふれるものとしている。僕の好みとしては、BBC盤よりもこちらをとりたい。
E. Mravinsky/Leningrad Philharmonic Orchestra
第1楽章: 24'40"
第2楽章: 5'55"
第3楽章: 6'05"
第4楽章: 9'40"
第5楽章: 12'25" 
完成された解釈には惰性が微塵もなく、全身全霊を傾けた凄みに聴き手は何も形容する言葉がない。緊迫感と熱狂とのバランスが程よくとれているのが特徴的。モノラルなのが残念だが、ムラヴィーンスキイのライヴ録音としては音質もそれほど悪くない。
E. Mravinsky/Leningrad Philharmonic Orchestra
第1楽章: 24'33"
第2楽章: 6'07"
第3楽章: 6'17"
第4楽章: 9'37"
第5楽章: 12'58" 
数あるムラヴィーンスキイのショスタコーヴィチ演奏の中でも、究極の名演。全ての要素が理想的に再現され、考え抜かれ計算し尽くされた設計であるにもかかわらず、あたかもたった今生み出されたかのような新鮮さも失っていない。厳しさの極みでありながら余裕あふれる響きが、この巨大な交響曲にとてつもない深みを与えている。ショスタコーヴィチの全作品の中でも最上級といえるこの作品の持つ内容を、余すところなく表現しきった、いや更により深遠な内容を付け加えたとさえいえる凄絶な演奏である。何度聴いても飽きるどころか、常に新たな発見と感動がある。
G. Noseda/London Symphony Orchestra
第1楽章: 25'34"
第2楽章: 6'35"
第3楽章: 6'15"
第4楽章: 10'43"
第5楽章: 16'01" 
細部に至るまで丹念に磨き上げられた、精緻な演奏である。もちろん音量のレンジは広いので、大音量にも不足はしないのだが、強奏部に全てのピークがある爆演ではなく、むしろ弱奏部に意味深さを追求している。白眉は第1楽章の再現部以降で、表現の繊細さと集中力は特筆に値するだろう。終楽章の再現部以降も同様の解釈なのだが、さすがに疲労を隠し切れなかったのか、やや集中力に欠けているのは惜しい。
G. Oskamp/Belarusian State Symphony Orchestra
第1楽章: 25'32"
第2楽章: 5'43"
第3楽章: 6'19"
第4楽章: 13'09"
第5楽章: 13'45" 
オーケストラの力量が不足している。薄っぺらくて安っぽい音、浮足だったリズム感…。解釈を云々するレベルではない。
V. Petrenko/Royal Liverpool Philharmonic Orchestra
第1楽章: 25'14"
第2楽章: 6'03"
第3楽章: 6'18"
第4楽章: 9'34"
第5楽章: 14'48" 
作品を覆う様々な思い入れを排してスコアを客観的に紐解きつつも、その音の連なりには内から自然に湧き上がる熱気が満ちた、熱くも見通しの良い演奏である。冒頭から、旧ソ連の巨匠達に聴かれる錆びた鋼の塊を投げつけるような響きとは全く異なり、しなやかに意味深い音楽が流れ出すところに、現代のショスタコーヴィチ演奏の優れた典型を聴くことができる。
P.-D. Ponnelle/Staatsphilharmonie Minsk
第1楽章: 34'05"
第2楽章: 6'19"
第3楽章: 6'50"
第4楽章: 15'36"
第5楽章: 16'09" 
異様に遅い演奏。丁寧な仕上げではあるが、音楽そのものは内容が希薄である。Christian Rischertの「Gesang der Vögel」という映画で使われた音源のようだが、確かに映画のサントラとしては大変雰囲気のある演奏といえる。
A. Previn/London Symphony Orchestra
第1楽章: 25'08"
第2楽章: 5'51"
第3楽章: 5'34"
第4楽章: 11'16"
第5楽章: 13'23" 
今一つ冴えない演奏。このコンビにしては、アンサンブルに雑な部分もある。とはいえ、安定した音楽の流れはまあまあ。焦点が定まりきらず、散漫な仕上がりなのが惜しい。
A. Previn/London Symphony Orchestra
第1楽章: 27'47"
第2楽章: 6'14"
第3楽章: 6'08"
第4楽章: 13'17"
第5楽章: 14'16" 
このコンビには珍しく気合いの入りまくった熱演。無理にがなり立てたりすることはないが、猛烈なテンションが最初から最期まで持続しているのに圧倒される。第1楽章や第5楽章のクライマックスには思わず引き込まれてしまうが、凄いのは第4楽章。非常に遅いテンポで静寂の世界を見事に描き出している。録音も良く、この作品の内容を存分に味わうことができる。
A. Rodzinski/New York Philharmonic
第1楽章: 26'30"
第2楽章: 6'15"
第3楽章: 6'25"
第4楽章: 8'10"
第5楽章: 12'50" 
指揮者もオーケストラも平凡。もちろん、技術的には安定した出来だし、解釈自体もいつもほどではないにせよロジンスキらしさが出ている。この作品の巨大さが十分に再現されているとは言い難いが、それなりにまとまっていることは確か。しかし、如何せんあまりに録音が悪いので、演奏そのものを楽しむというレベルには到達しないだろう。
M. Rostropovich/National Symphony Orchestra
第1楽章: 22'51"
第2楽章: 6'11"
第3楽章: 6'55"
第4楽章: 10'23"
第5楽章: 14'45" 
安定した好演。このコンビによくあるアンサンブルの乱れや、過剰な昂奮はあまり感じられない。地に足のついた解釈でスケール大きな音楽にまとめあげられているが、音楽そのものにはそれほど力はない。これを巨匠の境地と聴く人もいるだろうが、実際はロストロポーヴィチ自身が感じているこの作品の巨大さを、双方のテクニックゆえに十分に表現できなかっただけではないだろうか。
M. Rostropovich/London Symphony Orchestra
第1楽章: 26'34"
第2楽章: 6'46"
第3楽章: 7'07"
第4楽章: 12'01"
第5楽章: 16'16" 
妙に細部をいじりすぎて失敗した演奏の典型。全体的にはなかなかの緊張感が貫かれているものの、節の歌わせ方や動機の強調、パウゼの入れ方など、音楽の流れを阻害するとしか思えない味付けが多すぎる。結果として散漫な印象しか残らず、作品の持つ迫真性が十分に表出されているとは言えない。
G. Rozhdestvensky/London Philharmonic Orchestra
第1楽章: 24'02"
第2楽章: 6'28"
第3楽章: 6'25"
第4楽章: 9'16"
第5楽章: 13'29" 
ソ連文化省SOとの全集録音と同時期に行われたロンドンでのライヴ録音。オーケストラこそ違うものの、演奏解釈に違いはない。ただ、主として録音のせいだろうが、異様に暴力的な音の洪水が印象的だった全集録音が嘘のように、全体としては常識的な響きに収まっている。こちらの方が聴きやすいのは確かだが、ロジデーストヴェンスキイの名に期待する聴き手にとっては肩透かしだろう。
G. Rozhdestvensky/USSR Ministry of Culture Symphony Orchestra
第1楽章: 24'44"
第2楽章: 6'31"
第3楽章: 6'47"
第4楽章: 10'28"
第5楽章: 13'52" 
何とも凶暴な演奏。ピッチやアンサンブルの不揃いなど全くお構いなし。耳に優しくない強烈な音響を、これでもかという位に叩きつけてくる。しかしこれは決して効果狙いではなく、曲の本質を抉り出そうとする切実な姿勢と密接に関係しているので、嫌味を感じることなく曲に引き込まれてしまう。ただ、こういう響きに慣れていない聴き手には拒否反応を示される可能性大。非常に疲れる演奏であることは間違いない。
K. Sanderling/Berliner Sinfonie-Orchester
第1楽章: 27'03"
第2楽章: 6'29"
第3〜5楽章: 32'41" 
非常に地味で渋い演奏だが、深い内容を持った味わいのある音楽である。第2楽章などではオーケストラの技量とも相まって物足りなさを感じるが、第4楽章などの暗い静寂が支配しながらもニュアンスに富んだ音楽は感銘深い。突き刺すような緊張感というよりは、どこか懐の大きい温かさを感じさせる演奏である。
K. Sanderling/Swedish Radio Symphony Orchestra
第1楽章: 27'32"
第2楽章: 7'00"
第3楽章: 7'26"
第4楽章: 9'52"
第5楽章: 17'39" 
全曲を通して貫かれた非常に遅いテンポが、異様なまでの悠揚たる巨大さを醸し出す凄演である。長大な作品にも関わらず、第1楽章の冒頭から第5楽章の最後の音に至るまで途切れることのない情念のうねりからあらゆる音が捻り出される様に、文字通り息をつく暇もない。しなやかさすら感じさせる冒頭を聴いただけでも分かるように、ロシア色は強くないが、楽曲の本質に深く迫った重厚な響きは否応なしに聴き手の心を捉えて放さない。ただ、個人的な好みを言えば、第2楽章は呵責のないテンポこそが悲鳴のようなクライマックスに不可欠と考えるだけに、この演奏はあまりに遅過ぎるのが惜しい。
M. Shostakovich/London Symphony Orchestra
第1楽章: 29'49"
第2楽章: 6'32"
第3楽章: 6'23"
第4楽章: 12'32"
第5楽章: 14'47" 
重量級の演奏。ひたすら力で押しまくるが、そのネチっこいまでの重苦しさはこの曲の持つ魅力の一端を伝えてくれる。リズム感がぱっとしない、弱奏部がやや希薄な音楽になっているなどの問題もあるが、曲の巨大さを十分に描き出していることも事実。僕が好きなタイプの演奏ではないが、この嫌味たっぷりな演奏に惹かれる人もいるだろう。
M. Shostakovich/Prague Symphony Orchestra
第1楽章: 27'04"
第2楽章: 6'37"
第3楽章: 6'18"
第4楽章: 10'51"
第5楽章: 15'12" 
解釈そのものは、時にあざとさを感じさせるものの、重厚で悪くない。論理構成もしっかりしていて、散漫な印象はない。
Y. Simonov/Slovenian Philharmonic Orchestra
第1楽章: 25'11"
第2楽章: 6'22"
第3〜5楽章: 30'07" 
今一つ精彩に欠ける。それでもまだ第1楽章は聴けるが、第2楽章以降は音楽の凝集力が感じられない。ライヴ録音ということもあってか、オーケストラの力量の限界が露呈したような感じ。シーモノフにも、それを補うようなテンションの高さがなかったようだ。
L. Slatkin/Saint Louis Symphony Orchestra
第1楽章: 26'30"
第2楽章: 6'12"
第3楽章: 5'55"
第4楽章: 9'43"
第5楽章: 13'06" 
非常に整然とした、機能的でありながらも格調の高い秀演。ロシア風のアクの強さとは無縁の響きだが、曲の本質を見失っていないのが素晴らしい。オーケストラの名技も、決して派手ではないのだが光っている。曲の持つ精神の高貴さと裏腹の異常さはあまり感じられないが、立派な演奏であることは確かである。
L. Slovák/Czech-Slovak Radio Symphony Orchestra
第1楽章: 26'55"
第2楽章: 6'41"
第3楽章: 6'41"
第4楽章: 10'16"
第5楽章: 13'14" 
オーケストラは健闘しているが、随所で余裕のない音色がしているのが耳障り。特に強奏部分でのパワー不足が目立つ。音量の強烈な対比も曲の重要な要素であるために、物足りなさが残る。
G. Solti/Chicago Symphony Orchestra
第1楽章: 25'44"
第2楽章: 6'30"
第3楽章: 6'27"
第4楽章: 9'42"
第5楽章: 14'31" 
ショルティによるショスタコーヴィチ・シリーズの第1作にして最高傑作。3日分のテイクを編集しているために厳密な意味でのライヴ録音とはいえないだろうが、それにしても驚異的な完成度。完璧にコントロールされた音の洪水が、もはや人間業とは思えないような機能美を呈している。この非人間的な様相はこの曲の一つの側面でもあり、これ以上ないくらい圧倒的である。ムラヴィーンスキイなどに聴かれる尋常ならざる深みとは無縁であるが、むしろそういう要因を完全に無視してしまっているところがこの演奏の美点であるとすらいえるだろう。
E. Svetlanov/London Symphony Orchestra
第1楽章: 27'44"
第2楽章: 6'45"
第3楽章: 6'01"
第4楽章: 10'02"
第5楽章: 14'44" 
オーケストラの精度は低く、録音状態も優れないということもあるが、それ以上にスヴェトラーノフの解釈がしっくりとこない。端的に言えば、抒情的に過ぎる。この作品には、“形式主義者”ショスタコーヴィチの面目躍如たる荘厳な造形美があるが、この演奏ではそれを感じることができない。緊張感や音楽的な意志の力強さは十分に伝わってくるが、にもかかわらず音楽のあちこちに隙間が空いているように聴こえてならない。中では、第4楽章の雰囲気と訴求力が印象的。
M. Wigglesworth/Netherlands Radio Philharmonic Orchestra
第1楽章: 28'49"
第2楽章: 6'52"
第3楽章: 6'46"
第4楽章: 10'35"
第5楽章: 15'49" 
ウィグルスワースの全集中随一の名演である。力みのない、常に余裕を感じさせる音楽の運びながら、力感にも一切の不足がない。第3楽章以降のドラマの設計も周到なもので、終楽章の意味深さが傑出している。

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Last Modified 2023.09.27

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