是非聴いておきたい作品とそのCD

※以下で紹介するディスクのレーベルや番号は変わっている可能性があります。また、現在入手が困難なものも含まれていますのでご了承下さい。


まず最初は、ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 作品77を聴いてみましょう。金管楽器はホルンしか含まれていないため、交響曲などでその強烈な音色に閉口している方にとっても聴きやすいのではないかと思います。それでいて極めてシンフォニックな、いわば「ヴァイオリンのオブリガート付き交響曲」とでもいえるスケールの大きな作品です。メロディーも美しいし、時間も40分弱とお手頃。しかも、「DSCH」の変形が出てきたり、ユダヤの旋律が盛り込まれていたり、初演がしばらく差し控えられたために作品番号が変更になったり、と“裏”の意味を詮索する材料にも事欠かないというオマケ付き。曲の完成度が非常に高いため、ソリストとオーケストラの双方が技術的にしっかりとしていれば、多少解釈に不満が残りこそすれ、聴くに耐えない演奏となることはありません(そのため、ベルキン&アシュケナージ/ロイヤルPO盤は失格)。とはいえ、初演者であるD.オーイストラフとムラヴィーンスキイ/レニングラードPOの演奏(メロディア-VICC2132)は、他の全てを圧倒しています。彼らがチェコで演奏した時のライヴ録音(PRAGA-PR 250 052)も、素晴らしい緊迫感に貫かれた名演です(ただし、オーケストラはチェコPO)。録音に我慢ができない人は、世界初録音のD.オーイストラフ&ミトロプーロス/ニューヨークPO盤(SONY CLASSICAL-MHK 63327)をどうぞ。これは入手も容易だと思われます。新しい録音ではレーピン&ナガノ/ハレO盤(ERATO-WPCS-4552)がお薦め。

さて続いては、室内楽作品にチャレンジしてみましょう。ショスタコーヴィチの美質は室内楽にこそ発揮されていると思います。まずは中期の傑作ピアノ五重奏曲ト短調 作品57から。演奏はエドリーナ&ボロディーンQ(メロディア-VICC2118)のものが綺麗です。次に交響曲と同数残された弦楽四重奏曲の中から第14番嬰ヘ長調 作品142を。これは本当に美しい、切なくなるほど美しい名品です。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲のほとんどを初演したベートーヴェン四重奏団のチェリスト、セルゲーイ・シリンスキイに捧げられた曲ということもあり、チェリストがしっかりとした団体の演奏であれば十分にその美しさを堪能することができます。全集も完成させているボロディーンQ(メロディア-VICC40018〜23)タネーエフQ(メロディア-VICC401804〜9)の演奏が優れていますが、新しい録音の中ではハーゲンQ(DG-445 864 2)がいい線いってます。ショスタコーヴィチの全創作を通して最高傑作といえるヴィオラ・ソナタ ハ長調 作品147も是非聴いて頂きたいところです。この曲を知る前と後とでは、音楽観だけではなく人生観まで変わっていることでしょう。数少ないヴィオラ・ソナタの大傑作ということで著名なヴィオラ奏者達は皆この曲を録音していますが、初演者ドルジーニン&ムンチャン盤(メロディア-VICC2049)が曲に対する真摯な姿勢とロシア流儀の深い音色で一番のお薦めです。バシメートのようにやや軟派な音楽をする人よりも今井&ペンティネン(BIS-KKCC2054)カシュカシャン&レヴィン(ECM-POCC1005)のように辛口で硬派な演奏家のものが、この曲にはより適しているように感じられます。

この辺りで交響曲にも目を向けましょう。何だかんだいって、ショスタコーヴィチの創作を語る上で交響曲をはずすことは絶対にできません。まずは交響曲第10番ホ短調 作品93から入りましょう。その楽天的な終楽章を巡って様々な意見が交された曲ですが、非常に優れた作品です。カラヤン/ベルリンPO盤(DG-POCG1383)が素晴らしい演奏です。カラヤンが取り上げたショスタコーヴィチの作品は、この曲だけです。しかも2回も録音しています。その旧盤(DG-429716-2GGA)も、高めのピッチと早めのテンポで押した勢いあふれる演奏で魅力があります。有名な曲ばかり取り上げていたバーンスタインに比べ、カラヤンの曲に対する理解の深さには改めて恐れ入ります。もっとも、そんなカラヤンもムラヴィーンスキイの前では霞んでしまいます。ムラヴィーンスキイ/レニングラードPOによる1976年のライヴ盤(2種類ある)が圧倒的な名演です。続いて交響曲第8番ハ短調 作品65をどうぞ。声楽の入らない交響曲の中では間違いなく最高の曲です。これも献呈されたムラヴィーンスキイの演奏で聴きましょう。晩年(1982年)のライヴ録音(Philips-422442-2PH)が決定盤。1960年イギリスでのライヴ録音(BBC Legend-BBCL 4002-2)も、当時としては驚異的な録音の良さと、凄まじい熱気が圧倒的です。また、晩年の通しリハーサルを収録したヴィデオ(DML-DMEC 18001/4)も見逃してはなりません。なんと硬派な素晴らしい演奏なのでしょうか。これほどまでに、作曲家と演奏家とが文字通り一体となれた例は稀有でしょう。

ショスタコーヴィチは、歌の扱いにも長けていました。まずは晩年の歌曲から入っていきましょう。A.ブロークの詩による7つの歌曲 作品127はピアノ三重奏を伴奏とした独創的な作品です。歌詞がロシア語というやや特殊な言語のため、ソリストがロシア人である方が望ましいでしょう。初演者ヴィシネフスカヤ/D.オーイストラフ(Vn)ロストロポーヴィチ(Vc)ヴァインベルグ(Pf)(Melodiya-74321 53237 2)の演奏が、期待に違わず素晴らしいものです。M.ツヴェターエヴァの詩による6つの歌曲 作品143は、僕の大好きな作品です。弦楽四重奏曲第14番と同じ種類の美しさに満ちた作品です。ピアノ伴奏よりはオーケストラ伴奏(作品143a)の方がより美しさを味わうことができます。この曲の録音は大変少なく、ロシア人の演奏ということになると、ボガチェーワ&バルシャーイ/モスクワ室内O(メロディア-VICC40082〜3)位しか見当たりません。それでも万難を排して一聴されることをお薦めいたします。

ここで完成された2つの歌劇を聴いてみるのもよいでしょう。歌劇「鼻」作品15にはロジデーストヴェンスキイ/モスクワ室内音楽劇場O他(Melodiya-74321 60319 2)歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人」作品29にはロストロポーヴィチ/ロンドンPO他(EMI-TOCE7639〜40)による決定的な録音が残されています。また、双方共に映像も発売されています。前者はモスクワ室内音楽劇場(EMI-TOLW3747〜8)の公演を収録したもので、ポクローフスキイの前衛的な演出が楽しめます。後者は歌劇「カテリーナ・イズマーイロヴァ」作品114ですが、シメオノフ/キエフ劇場O他(BMG-BVLO27〜8)による録音に合わせた映画となっています。やはりこうした舞台作品は映像を伴った方が面白味も増すというものです。

声楽作品の素晴らしさも知ったところで、交響曲の最高傑作交響曲第13番変ロ短調 作品113を聴きましょう。この巨大な作品では、初演者コンドラーシン/モスクワPO他(メロディア-VICC40094〜103)の演奏が一頭抜きん出ています。このように凄絶な音楽に対しては、形容する言葉が見つかりません。

ここまで聴き通してこられた方は、改めて交響曲第5番ニ短調 作品47オラトリオ「森の歌」作品81を聴き直してみてください。前者にはあまりに多くの録音がありますが(僕の手元にあるだけでも100枚超)、インバル/フランクフルト放送SO盤(DENON-COCO75510)が余分な解釈を排した純音楽的な演奏です。ロシア流儀の強烈な金管楽器の音色ではないので、一般的に受け入れられやすいことでしょう。後者はムラヴィーンスキイ/ソヴィエト国立SO他(メロディア-VDC25005)の引き締まった演奏も捨てがたいのですが、あえて“これぞロシア”というスヴェトラーノフ/ソヴィエト国立SO他(メロディア-VICC2115)で聴いてみましょう。「スターリングラード市民は行進する」でのヤケクソのような大音響と、最終和音の肺も潰れんばかりの引き延ばしは、嫌味を通り越して爽快ですらあります。

さて、いかがでしょうか?社会科の教科書のような解説書を読んで、ショスタコーヴィチを敬遠していたアナタ。曲をロクに理解していない指揮者が何も考えずに喧しく盛り上げた第5交響曲のコーダを聴いてショスタコーヴィチが嫌いになったアナタ。ショスタコーヴィチは何も新しいものを創造しなかった保守的な作曲家だと思っていたアナタ。以上に挙げた曲・演奏を聴けば、認識を改めざるを得ないでしょう?ここで取り上げなかった曲の中にも素晴らしい作品が山のようにあります。食わず嫌いをやめて、虚心になってショスタコーヴィチの音楽を聴いてみてください。絶対に損はしませんから。


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Last Modified 2008.05.14

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