プログラム掲載の曲目解説

Дмитрий Дмитриевич Шостакович
ドミートリィ・ドミートリェヴィチ・ショスタコーヴィチ(1906〜1975)
ロシアとキルギスの民謡による序曲 作品115
(Увертюра на русские и киргизские народные темы соч. 115)

ドミートリィ・ドミートリェヴィチ・ショスタコーヴィチ(今年没後二十五年を迎えた)がキルギス共和国を訪れたのは1963年6月1〜10日、キルギスのロシアへの自由加盟(1863年にロシア帝国がキルギス人の大部分が住む北キルギスタンを領有したことを指す。すなわち事実上の征服)百年祭と同時に開催されたロシア・ソヴィエト音楽旬間へ出席した時のことだった。

1960年9月14日、ショスタコーヴィチは作曲家同盟合同党組織全体会議においてソ連共産党員候補に推薦され、翌年9月にモスクワ作曲家組織の公開党会議で正式にソ連共産党員として承認された。1961年にはレーニンの思い出に捧げた交響曲第12番「1917年」作品112を作曲し、いかにも従順で模範的な共産党員のような素振りを見せたショスタコーヴィチだが、それと引き換えに1936年に作曲された後にプラウダ批判の影響で長らくお蔵入りしていた交響曲第4番作品43の初演を果たす。そして翌1962年にはエヴゲーニイ・エフトゥシェーンコの詩につけた問題作、交響曲第13番作品113を発表する。ここには、共産党員としての立場を最大限に利用するショスタコーヴィチのしたたかさが見られる。

1956年のスターリン批判以降多くの政策が転換を迫られたが、キルギスのロシアへの自由加盟百年祭というのも当時の民族政策を反映した行事だと考えられる。そして、共産党員であるショスタコーヴィチがそれを祝う作品を作曲することは、いわば当然のことだったのだろう。

作曲は1963年初秋頃、レニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)郊外のレーピノで行われた。1963年10月10日または11月10日にモスクワでイワノフ指揮のソヴィエト国立交響楽団によって初演され、同年11月2日には、キルギス共和国の首都フルンゼ(現ビシュケク)でも演奏されている(演奏者は不明)。

序奏付きのソナタ形式によるこの曲は、ロシアの民謡「Эх, бродяги вы, бродяги(おぉ、放浪の人よ)」(A. メドヴェージェフによって1959年に西シベリアのオムスク州で採譜された)と、キルギスの民謡「Тырылдан(ティリルダン:キルギスの神話的な人物の名前)」「Оп майда(オプ、マイダ:脱穀する人の歌)」(1956年刊のV. ヴィノグラドーフによるキルギス民謡集に所収)という3つの旋律が元になっている。ここでロシアの民謡としてあまり知られていないシベリア地方の民謡を取り上げたのは、ショスタコーヴィチの両親が共にシベリアの出身であったことが影響しているのかもしれない。

序奏はModeratoで、木管楽器のユニゾンによる主題(ティリルダン)によって開始される。Allegro non troppoの主部に入るとすぐに、ホルンのソロで奏される第1主題(おぉ、放浪の人よ)が現われる。いかにもショスタコーヴィチらしい転調を含む盛り上がりを見せた後、第1ヴァイオリンがD線の開放弦を伴って第2主題(オプ、マイダ)を奏する。金管楽器によって第2主題が繰り返された後、特徴的な第1主題の変形が現われ、提示部を終える。この変形は、第2主題に近い雰囲気も持っており、「キルギスのロシアへの自由加盟」を象徴するような役割を担っているとも考えられる。加えて、リズムの構成がいかにもショスタコーヴィチ的で大変効果的である。

展開部では、序奏の旋律を中心にして第1主題の前半部分と第2主題とが自由に展開される。全体の雰囲気は極めて勇壮で、ショスタコーヴィチの手慣れたオーケストレイションが高揚感を自然に表出している。盛り上がりが頂点に達したところで第1主題の変形が再び現われ、展開部を締めくくる。型通りに第2主題と第1主題が再現された後、第1主題の変形をはさんで序奏の旋律が印象的に奏され、クライマックスを築く。ここで冒頭のキルギス民謡の主題が力強く登場することは非常に効果的で、ロシア帝国によって(事実上)征服されたキルギス人の魂の叫びを感じることもできよう。小休止後のコーダでは、第2主題(これもキルギス民謡)を弦楽器が演奏し、テンポがAdagioからAllegroまで早められた後、あたかも「キルギスのロシアへの自由加盟」を意固地に主張するかのように第1主題の変形が三度繰り返される中で速度と音量を増し、圧倒的な勢いの中で華やかに曲は閉じられる。

※この作品についてもう少し詳しく知りたい方は、以下のURLにアクセスしてみて下さい。
http://develp.envi.osakafu-u.ac.jp/staff/kudo/dsch/kirgyz.html


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Last Modified 2006.05.24

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