ムラヴィーンスキイのШостакович演奏

もしも私が自分の生涯のおもな出来事について尋ねられたなら、私はそのアンケートの質問にこのように答えるだろう。

一生で最も重要な出会いは
  ――ショスタコーヴィチとの出会い

最も深い感銘を受けた音楽は
  ――ショスタコーヴィチの作品

演奏活動において最も重要なことは
  ――ショスタコーヴィチの作品の研究

指揮者として最も困難なことは
  ――ショスタコーヴィチの交響曲初演を準備したときの“産みの苦しみ”、障害そして抵抗

エヴゲーニイ・アレクサーンドロヴィチ・ムラヴィーンスキイ


エヴゲーニイ・アレクサーンドロヴィチ・ムラヴィーンスキイ(1903〜1988)は20世紀最大の指揮者の一人として数多くの名演を残していますが、同じ時代・社会を生き、多くの初演を手がけたことで、彼のショスタコーヴィチ演奏は特別な意味を持っています。また、その演奏自体も他の指揮者を全く寄せ付けない、別格の素晴らしさを持っています。

まず、早目のテンポ設定。時にはスコアのメトロノーム表示を無視しているとさえ感じられるほどですが、ショスタコーヴィチ自身の自作演奏を聴くと、まさにその早さこそが彼の望んでいたものだということが分かります。そして、驚くほどスコアに忠実なデュナーミクの設計。極めて知的な作曲家だったショスタコーヴィチのスコアを、これまた並外れて知的な指揮者だったムラヴィーンスキイが読んでいるのですから、当然といえば当然かもしれません。また、ムラヴィーンスキイ自身が徹底して鍛え上げたレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の人間業とは思えない合奏力も特筆に値します。ショスタコーヴィチ作品の演奏には、スコアを忠実に音化する卓越した演奏技術が必要不可欠です。彼らは、この要求を十全に果たしているといえるでしょう。こうした細かい事柄の完璧な積み上げに加え、ムラヴィーンスキイの持つ独特の厳しさと寂寥感が、ショスタコーヴィチの音楽が持つ情熱や皮肉を誰よりも素晴らしく表現することを可能にしているのです。これほどまでに作曲家と演奏者相互の音楽的資質が一致した例というのは、極めて稀なのではないでしょうか。交響曲第13番の初演を巡って晩年は仲違いしていたという話もありますが、それでも彼らのプロフェッショナルな信頼関係は終生疑う余地のないものだったと、僕は信じています。

ヴォールコフ編集の『ショスタコーヴィチの証言』(現在では、物議をかもした記述のほとんどがショスタコーヴィチ自身の発言ではないことが示されている)の中にショッキングな記述があったため、一部にはムラヴィーンスキイのショスタコーヴィチ演奏に疑念を持つ人もいるようですが、そうした先入観を一度取り払ってスコアだけを見てムラヴィーンスキイの演奏に耳を傾けてみてください。ソヴィエト体制の中で様々な思いをしながらもひたすら音楽でのみ自分を表現し続けたショスタコーヴィチの音楽には、“政治と芸術”などという陳腐な視点からでは語り切れない超人的な意志の力と情熱が満ちています。ひたすら指揮者という天職を全うし続けたムラヴィーンスキイの演奏は、それを他の誰よりもはっきりと伝えてくれるのです。


演奏記録

これは、『フォミーン, V.・河島みどり監訳:評伝エヴゲニー・ムラヴィンスキー, 音楽之友社, 1998.』の巻末資料を参考にまとめたものです。1932〜1982年のレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団との演奏記録であり、他のオーケストラとの演奏回数はカウントされていません。また、ムラヴィーンスキイは1987年までレニングラード・フィルを指揮していますが、1983年以降の演奏回数もカウントされていません。

曲名初演日演奏回数備考
交響曲第5番ニ短調 作品471937年11月21日102
交響曲第6番ロ短調 作品541939年11月21日55
交響曲第7番ハ長調 作品60
15
交響曲第8番ハ短調 作品651943年11月4日36初演はソヴィエト国立交響楽団
交響曲第9番変ホ長調 作品701945年11月3日2
交響曲第10番ホ短調 作品931953年12月17日10
交響曲第11番ト短調「1905年」作品103
8レニングラード初演
交響曲第12番ニ短調「1917年」作品1121961年10月1日16
交響曲第15番イ長調 作品141
4
祝典序曲 作品96
2
ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 作品771955年10月29日12独奏:D.オーイストラフ
チェロ協奏曲第1番変ホ長調 作品1071959年11月4日3独奏:M.ロストロポーヴィチ
オラトリオ「森の歌」作品811949年11月15日8

ディスコグラフィ&聴き比べ

ディスコグラフィーの作成に当たっては、天羽さんのWWWページを参考にしました。ディスク番号等は僕が所有しているものを記していますので、必ずしも現在入手しやすいものとは限りません。オーケストラは備考欄に特記しない限り、レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団、演奏場所は、レニングラード=レニングラード・フィルハーモニー大ホール、モスクワ=モスクワ音楽院大ホールです。また、St=スタジオ録音、L=ライヴ録音、M=モノラル録音です。

曲名をクリックすると、僕が所有しているものについて聴き比べを行なった感想等が表示されます。また、ディスク番号をクリックするとジャケット画像が別ウィンドウに表示されます。

曲名録音年月日演奏場所レーベルディスク番号備考所有
交響曲第5番ニ短調 作品471938年3月27日〜4月3日レニングラードBMG(J)BOCC-3St, M
1938年暮れ〜1939年初めレニングラードBMG(J)BVCX-8020/3St, M
1954年4月3日レニングラードビクターVDC-25004St, M
1965年11月24日レニングラードRussian DiscRDCD 10910L, M
1966年レニングラードRussian DiscRDCD 11023L
1967年5月26日プラハArkadiaCDGI 714.2L, M
1973年5月3日レニングラードAltusALT127St
1973年5月26日東京AltusALT-002L
1973年6月29日レニングラードRussian DiscRDCD 11180L
1978年6月12日ウィーンビクターVICC-40118/23L
1982年11月18日ソ連Scorascoracd011L
1984年4月4日レニングラードビクターVDC-25026L
1973年4月26日レニングラードAltusALT127リハ
1973年5月3日レニングラードAltusALT127リハ
1973年6月レニングラードDreamlifeDLVC-1111映像:通しリハ
1983年11月20日ミンスク東芝TOLW 3667映像:L
1966年レニングラードTeldec(J)WPLS 4120映像:L、第4楽章のみ
1973年レニングラードTeldec(J)WPLS 4120映像:リハ
1983年11月19日ミンスクDMLDMEC 18005/8映像:リハ
交響曲第6番ロ短調 作品541946年11月4日レニングラードBMG(J)BVCX-4016St, M
1965年2月21日モスクワビクターVICC-40118/23L
1972年1月27日モスクワRussian DiscRDCD 10910L
1973年5月4日レニングラードAltusALT127リハ
交響曲第7番ハ長調 作品601953年2月26日レニングラードビクターVICC-40118/23St, M
交響曲第8番ハ短調 作品651947年6月2日レニングラードビクターVICC-40118/23St, M
1960年9月23日ロンドンBBCBBCL 4002-2L
1961年2月12日レニングラードDreamlifeDLCA-7003L, M
1961年2月25日レニングラードBMG(J)BVCX-8024/7L, M
1976年1月31日ソ連Scorascoracd012L
1982年3月27日又は28日レニングラードPhilips422442-2PHL
1982年3月27日レニングラードDreamlifeDLVC-1111映像:通しリハ
交響曲第10番ホ短調 作品931954年4月24日
Saga ClassicsSCD 9017St, M
1955年6月3日プラハPragaPR 250053L, M
1976年3月3日レニングラードビクターVDC 25027L
1976年3月31日レニングラードビクターVICC-40118/23L, M
交響曲第11番ト短調「1905年」作品1031957年11月3日レニングラードRussian DiscRDCD 11157L, M
1959年2月2日モスクワビクターVICC-40118/23St, M
交響曲第12番ニ短調「1917年」作品1121961年10月1日モスクワVeneziaCDVE 04405L, M
1961年モスクワビクターVICC-40118/23St, M
1984年4月29日又は30日レニングラードビクターVDC 25028L
1984年4月29日レニングラードDreamlifeDLVC-1116映像:L
交響曲第15番イ長調 作品1411972年5月5日又は6日レニングラードMelodiyaM10-43653/4L, M
1976年5月26日レニングラードビクターVICC-40118/23L
祝典序曲 作品961955年4月21日レニングラードRussian DiscRDCD 10902L, M
ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 作品771956年1月21日又は23日ウィーンOrfeoC 736 081 BL, M
D.オーイストラフ(Vn)
1956年11月30日レニングラードビクターVICC-2132St, M
D.オーイストラフ(Vn)
1957年5月プラハPragaPR 250052L
D.オーイストラフ(Vn)、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団


Hall of FameHOFS 512L, M
L.コーガン(Vn)


One-ElevenEPR 95030L, M
R.リッチ(Vn)
オラトリオ「森の歌」作品811949年12月12日モスクワビクターVDC-25005St, M
V.キリチェフスキー(T)、I.ペトローフ(B)、A.スヴェシニコフ(合唱指揮)、国立アカデミー合唱団、国立合唱学校児童合唱団、ソヴィエト国立交響楽団

 ShostakovichのHome Pageに戻る

Last Modified 2012.10.09

inserted by FC2 system