Шостаковичが音楽を担当した映画

ショスタコーヴィチといえば何といっても各15曲に及ぶ交響曲と弦楽四重奏曲の作曲家として有名ですが、彼はその生涯に34作もの映画音楽を担当していることも注目されます。CD時代になってからショスタコーヴィチの映画音楽を耳にすることが比較的容易になったのは、大変喜ばしいことです。しかしながら、肝心の映画そのものについての情報はCDの解説等を見てもあまり詳しく書かれていません。そこで、私の分かる範囲で各作品の情報やあらすじ等を簡単にまとめてみました。なにぶん映画に関しては疎いので、間違い等ございましたら是非ご指摘下さいますよう、お願いいたします。


[INDEX]


新バビロン(Новый Вавилон;Novyi Vavilon)
公開:
1929年3月18日(レニングラード)
監督:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
脚本:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
出演:
Yelena Kuzmina(Louise Poirier)、Pyotr Sobolevsky(Jean)、David Gutman (I)(Grasselin)、Sofiya Magaril(An actress)、Sergei Gerasimov(Lutro)、Yanina Zhejmo(Therese)、Yevgeni Chervyakov(Soldier)、Andrei Kostrichkin(Old shop assistant)、Oleg Zhakov、Vsevolod Pudovkin(Shop assistant)、Lyudmila Semyonova、A. Glushkova(A washerwoman)、A. Arnold、S. Gusev(Old Poirier)、Tamara Makarova、Sergei Martinson、Anna Zarzhitskaya(A young girl)

演奏:

F. クリッシュ

録音:

  • J. Judo/Berlin Radio Symphony Orchestra(CAPRICCIO-10 341/42)
  • V. Polyansky/Russian State Symphony Orchestra(CHANDOS-CHAN 9600、G. Rozhdestvensky編)など

スチール写真等:

  • ショスタコーヴィチ大研究, 春秋社, 1994, p.253.(2枚)
  • Judo盤解説書, pp. 1, 4 and 10.(3枚)
Comment

サイレント映画。パリ・コミューン期におけるパリの百貨店「新バビロン」の女性店員ルイーズと、抵抗戦線で知り合った兵士の恋人ジャンとの話。パリ・コミューンとその敗北を描いている。監督のコージンツェフとトラウベルグは「エクセントリック俳優工房(FEKS)」の創立メンバーであり、ここにはユトケーヴィチ、ゲラーシモフ、エルムレルといった、後にショスタコーヴィチと共に仕事をすることになる人々も参加していた。特にコージンツェフとは、ショスタコーヴィチ最後の映画音楽となる「リア王」に至るまで、終生協力関係を持ち続けた。前衛的な主義主張を掲げた彼らの映画には、自然主義的な写実を拒否した光と影の様式的なイメージが際立っていた1。サドゥールは、「『新バビロン』はエイゼンシュテインの影響を受けていた。すなわち、豊富なモンタージュ、そのリズム、映像の美しさは注目に値した。真実らしくない幾つかの描写、審美的探求の過剰のために、この映画は第一級の作品となることを少々妨げられている。それでもこの作品はその末期に到達したサイレント映画芸術の重要な創作物であった。」2と評している。

一方、ショスタコーヴィチの音楽について、コージンツェフは次のように回想している。「我々は、同じ考えを持っていた。それは、場面場面を描写するのではなく、場面場面に新しい特性と展望を与えることである。音楽は、行動の内面の意味を示すよう、外的な事件に抗して作曲されなければならない。……多くの面において、それはトーキーを予知したものであり、映画の性格は変化した。」3ショスタコーヴィチの複雑なスコアは映画館の楽士には難しすぎて、レニングラードでの公開時は演奏を拒否されたらしく、モスクワの公開時にようやく初演された。しかしながら、映画館のオーケストラの指揮者が通常受けていた伴奏の編集・編曲に対する支払いを失う上に、難しく不慣れな音楽の練習に時間を取られることに対する抵抗が大きく、ショスタコーヴィチの努力もむなしく、すぐに音楽ははずされてしまったらしい。

  1. 山田和夫:ロシア・ソビエト映画史―エイゼンシュテインからソクーロフへ, キネマ旬報社, 1997, p.89.
  2. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, p.257.
  3. ソレルチンスキイ, D. & L.・若林健吉訳:ショスタコーヴィチの生涯, 新時代社, 1986, p.72.

女ひとり(Одна;Odna)
公開:
1931年10月10日(レニングラード「豪華な宮殿」映画館)
監督:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
脚本:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
撮影:
出演:
Yelena Kuzmina、Pyotr Sobolevsky、Sergei Gerasimov、Yanina Zhejmo、Boris Chirkov、Mariya Babanova、Liu-Sian Van

演奏:

N. ラビーノヴィチ指揮

録音:

  • W. Mnatsakanov/Byelorussian Radio and TV Symphony Orchestra(RUSSIAN DISC-RD CD 10 007)
  • R. Chailly/Royal Concertgebouw Orchestra(LONDON-POCL-1874、抜粋)
  • G. Rozhdestvensky/USSR Symphony Orchestra Soloists Ensemble(BMG-74321 59058 2、G. Rozhdestvensky編)
  • など

スチール写真等:

  • ショスタコーヴィチ大研究, 春秋社, 1994, p.253.(1枚)
Comment

もともとサイレント映画として撮影され、後にショスタコーヴィチの音楽をつけてトーキー化された。レニングラードからアジアの中央部にあるアルタイ山中に派遣された若い女教師の物語。封建的な老人達の役割を理解した後で彼女は、鈍感で官僚主義的な一人の役人に反対して貧乏人達の味方となったために、凍死させられるように山中に置き去りにされるのだが、もう少しで命を失うところで飛行隊によって救出されるという話。地方新聞に掲載された、若い女性が山中で飛行隊によって救出されたという記事から着想されたらしい。サドゥールはこの作品を「プドフキンの心理描写の伝統に従ったこの映画は、当時、ヴェルトフとエイゼンシュテインの追従者たちが濫用していた大言壮語の犠牲にはならなかった。この作品は何よりも幾人かの登場人物の性格と一つの激しい争いを深く研究したものであった。アジアの自然風景はみごとに利用されていて、決してエグゾティスムにとらわれてはいなかった。」1と評している。ショスタコーヴィチの音楽については、「いくつかの音楽上のエピソードでは、音楽が、内面的な独白に似たひびきをもっている。雪の原野にとりのこされた女教師の絶望館は、いくつかのシンフォニーで表現されている。つまり音楽の中に恐れと憤りとがこめられている。人間の声を楽器の音色にしたものが、そこではもの言う人物が、その情だけでなく、その性格を表現している。」2と評価された。なお、当初は脚本家としてラーヤ・ヴァシーリエヴァも名を連ねていたが、本作の撮影中にキーロフ暗殺の計画者として逮捕され、処刑された3

  1. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, pp.257-258.
  2. V.ジダン・高田爾郎訳:ソヴェト映画史, 三一書房, 1971, p.159.
  3. ヴォルコフ, S. (編)・水野忠夫訳:ショスタコーヴィチの証言, 中公文庫, 1986, p.268.

黄金の丘(Златые горы;Zlatye gory)
公開:
1931年11月6日(レニングラード「芸術」映画館)
監督:
S. ユトケーヴィチ
脚本:
A. ミハイロフスキイ、V. ネドブロヴォ、S. ユトケーヴィチ、L. アルンシターム
出演:
V. Fyodoseyev(Putilov's son)、Y. Korvin-Krukovsky(Putilov)、Nikolai Michurin(Nikolai)、F. Nikolayev(Assistant Foreman)、Boris Poslavsky(Pyotr)、N. Razumova (I)(The Girl)、N. Sholkovsky(Inspector of Police)、Ivan Shtraukh、F. Slavsky(Short Worker)、Boris Tenin

演奏:

N. ラビーノヴィチ指揮

録音:

  • G. Rozhdestvensky/USSR Ministry of Culture Symphony Orchestra(BMG-74321 59058 2、組曲版)
  • W. Mnatsakanov/State Cinematographic Symphony Orchestra(CITADEL-CTD 88129、組曲版)など

スチール写真等:

Comment

ロシア帝政時代末期、都会にやってきて間もない一人の教養のない農夫がストライキ破りとなり、ついで、連帯責任とは何であるかを理解して仲間に加わって行くという話。サドゥールはこの作品を、「集団的作品であり、感動的でみごとに構成された脚本の中に<良心の把握>というプドフキン的テーマが見い出される」1と評しており、ショスタコーヴィチの音楽については「ショスタコヴィッチの美しい歌曲がロシヤ帝政時代の末期に展開されるこの物語のライトモティーフであった。」1と高く評価している。

  1. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, p.258.

呼応計画(Встречный;Vstrechnyi)
公開:
1932年11月7日
監督:
F. エルムレル、S. ユトケーヴィチ
脚本:
A. レーデリ、F. エルムレル、S. ユトケーヴィチ
撮影:
A. ギンズグル
出演:
Andrei Abrikosov、Pyotr Alejnikov、Mariya Blyumental-Tamarina、Zoya Fyodorova、Vladimir Gardin(Babchenko)、Tatyana Guretskaya、Boris Poslavsky(Skvorzov)、Boris Tenin(Vasya)

演奏:

N. ラビーノヴィチ指揮

録音:

  • R. Chailly/Royal Concertgebouw Orchestra(LONDON-POCL-1874)
  • W. Mnatsakanov/Byelorussian Radio and TV Symphony Orchestra(RUSSIAN DISC-RD CD 10 018)
  • V. Minin/State Moscow Chamber Choir(SACRAMBOW-SCW-1010、「呼応計画の歌」のみ)など

スチール写真等:

Comment

トーキー初期の社会主義リアリズムを確立したという意味で、映画史的に見逃せない作品とされている。レニングラードの金属工場でソヴィエト最初の強力タービンを予定よりはるかに早く完成させる物語を通じ、その計画を支持する労働者達の熱狂的な呼応ぶりと、そうした運動に初め反感を持っていた酒のみの職工長が次第にそれを理解し、ついには最も熱心な推進者になるまでの経過を取り上げて、第一次五ヵ年計画に際しての、全産業の目的達成競争の姿が生き生きと描かれている。典型的な国策映画だが、この主題歌「呼応計画の歌」は大ヒットした。1942年にはハロルド・ロームがつけた新しい歌詞によって「連合諸国民」というタイトルでアメリカで出版された。さらにその一年後、若干変更された形でMGMのミュージカル映画「サウザンズ・チアー」の中でも歌われて人気を博した。ちなみに、この映画も愛国心を扇動するような内容のもので、ジーン・ケリーが売り物だったという。


司祭とその下男バルダの物語(Сказка о попе и работнике его Балде;Skazka o pope i rabotnike yego Balde)
公開:
1967年7月9日(残された「バザール」のシーン(約4分)のみ、第5回モスクワ国際映画祭にて公開された。)
監督:
M. ツェハノフスキイ
脚本:
M. ツェハノフスキイ
原作:
A. プーシキン
美術:
M. ツェハノフスキイ、V. ツェハノフスカヤ

録音:

  • G. Rozhdestvensky/USSR Symphony Orchestra(BMG-74321 59058 2、組曲版)
  • W. Mnatsakanov/Belarus RTV Symphony Orchestra(CITADEL-CTD 88129、組曲版)など

スチール写真等:

Comment

プーシキンの物語詩を原作とするアニメ映画だが、すでに官許公認となっていたディズニー・アニメのスタイルから外れていたことを主な理由に上映を禁止された(市場の場面だけ後に公開された)。ロシアの民話を題材とした作品だが、司祭や軍人への風刺を含み、ブラック・ユーモア的な、グロテスク、喧騒と猥雑の充満した傑作であった1。ショスタコーヴィチはこの作品について「シナリオの出来はすばらしく、天才的なプーシキンの話のするどい諷刺と全体の調子とがうまく移されている。この動画は大衆的な娯楽作品としてつくられている。さまざまなするどい、誇張した場面があり、グロテスクな人物が登場する。物語は活気、軽み、おかしみで火花をちらす。そしてそのための音楽をつくることは、同じようにやさしくかつ楽しいことだった。物語の内容そのものと画家の意図とから、映画同様大衆的見せ物、メリーゴーラウンドのような音楽の性格となった。」2と語っている。『ショスタコーヴィチの証言』の中には「『司祭とその作男バルドの話』は反クストージエフの調子で一貫していた。そこには、酔っぱらいが春画めいた絵葉書を市場で売っている場面もあったが、その絵葉書に用いられていたのはクストージエフの絵だった。その題名は『ヌードのヴィーナス、太腿』で、明らかに、クストージエフの有名な『ロシアのヴィーナス』を当てこすっていた。」3というエピソードが紹介されている。

  1. 山田和夫:ロシア・ソビエト映画史―エイゼンシュテインからソクーロフへ, キネマ旬報社, 1997, p.147.
  2. グリゴーリエフ, L.・プラテーク, Ja. (編)・ラドガ出版所訳:ショスタコーヴィチ自伝 時代と自身を語る, ナウカ, 1980, p.49.
  3. ヴォルコフ, S. (編)・水野忠夫訳:ショスタコーヴィチの証言, 中公文庫, 1986, p.45.

愛と憎しみ(Любовь и ненависть;Lyubov i nenavist)
公開:
1935年3月3日
監督:
A. ゲンデリシテイン
脚本:
S. エルモリンスキイ
出演:
Nikolai Kryuchkov、Vera Maretskaya、Mikhail Zharov

録音:

  • なし

スチール写真等:

Comment

ドンバスにおけるデニキン、炭坑夫達の白衛軍との戦い、といった国内戦のエピソードを扱った作品。


マクシームの青年時代(Юность Максима;Yunost Maksima)
公開:
1935年1月27日
監督:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
脚本:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
出演:
Boris Chirkov(Maksim)、Stepan Kayukov(Dzhoma)、Valentina Kibardina(Natasha)、Anatoli Kuznetsov (I)(Turnyev )、Leonid Lyubashevsky、Maksim Shtraukh(Lenin)、Mikhail Tarkhanov(Polivanov)、Yuri Tolubeyev(Bugai)、Mikhail Zharov(Dymba)

演奏:

N. ラビーノヴィチ指揮

録音:

  • M. Jurowski/Rundfunk-Symphonie-Orchester, Berlin (Capriccio 10 561、「プロローグ」のみ)

スチール写真等:

Comment

ヴァシーリエフ兄弟による傑作映画「チャパーエフ」の主人公チャパーエフは、当時のソ連で大変人気のある人物となったが、それに匹敵する人気を獲得したのが、「マクシーム三部作」の主人公マクシームである。これら三本の映画は、特に様々な事件に飛んでいた三つの歴史的な時期を通して、一人のボルシェヴィキの工員の生涯を辿っていた。第一部となる本作は、第一次大戦前の時期が舞台であり、1935年に行われたモスクワ国際映画祭にて、第一位を獲得した。。映画の主題自体は生真面目なものだったが、本作では革命家達の通過で楽しみを乱された1900年のピクニックのシーンなどに見られるユーモアで和らげられていた。ショスタコーヴィチは、プロローグの音楽のみを作曲した。「マクシーム三部作」の中での古い街の小唄の扱い方が非常な人気を博したらしい。ちなみに、俳優ボリース・チルコフは、この脚本が書き上げられる前から特に意識してマクシームの役の準備を進めていた。彼は数ヵ月間、レニングラードのヴィボルグ地区にある工場で工員となり、彼がやがて演ずることになる役柄によりよくとけこもうとしたというエピソードが残されている。


女友達(Подруги;Podrugi)
公開:
1936年2月19日
監督:
L. アルンシターム
脚本:
L. アルンシターム、N. チーホノフ、R. ヴァシーリエヴァ
原作:
R. ヴァシーリエヴァ
出演:
Yanina Zhejmo(Asya)、Irina Zarubina(Natasha)、Zoya Fyodorova(Zoya)、I. Antipova(Zoya as a child)、Boris Babochkin(Andrei)、Serafima Birman、Mariya Blyumental-Tamarina(Grandmother)、Nikolai Cherkasov、Boris Chirkov(Senka)、D. Pape(Natasha as a child)、Vera Popova (I)(Daughter)、Boris Poslavsky(Stilich, the agitator)、Pavel Sukhanov

録音:

  • V. Pushkarev(Tp), A. Semyannikov, A. Shanin(Vn), N. Makshantsev(Va), S. Mnozhin(Vc), V. Postnikova(Pf)(MELODIYA-C10 26307 004)

スチール写真等:

Comment

国内戦の時代を舞台に、従軍看護婦として献身的に活躍した三人の女性を描いた映画。


マクシームの帰還(Возвращение Максима;Vozvrashchenie Maksima)
公開:
1937年3月23日
監督:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
脚本:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ、L. スラヴィン
原作:
撮影:
A. Moskvin
美術:
Ye. Yenej
出演:
Boris Chirkov(Maksim)、Aleksandr Chistyakov(Mishchenko)、Mikhail Gelovani、Stepan Kayukov、Valentina Kibardina(Natasha)、Nikolai Kryuchkov、Anatoli Kuznetsov (I)(Turnyev (as A. Kuznetsov))、Leonid Lyubashevsky、Maksim Shtraukh、Mikhail Tarkhanov、Yuri Tolubeyev(Bugai (as Yu. Tolubeyev))、Mikhail Zharov(Dymba)、Aleksandr Zrazhevsky

演奏:

N. ラビーノヴィチ指揮

録音:

  • C. Orbelian/Moscow Chamber Orchestra (Delos DE 3257、「ワルツ」のみ)

スチール写真等:

Comment

「マクシーム三部作」の第二部。舞台は1914年7月である。第一部「マクシームの青年時代」と同じく、マクシームと挑戦者達のビリヤード対決などのユーモアに満ちたシーンがある。また、本作の中には帝政時代のロシア国会のシークェンスが出てくるが、これは第三部「ヴィボルグ地区」における立憲議会のシークェンスと互いに連繋している。


ヴォロチャーエフカの日々(Волочаевские дни;Volochayevskie dni)
公開:
1938年1月20日
監督:
G. & S. ヴァシーリエフ
脚本:
G. & S. ヴァシーリエフ
出演:
Boris Blinov(Bublik)、Boris Chirkov(Old Man)、Nikolai Dorokhin(Andrei)、V. Gushchinsky(White Guard Officer)、Yuri Lavrov(White Guard Officer )、Vladimir Lukin(Egor)、Varvara Myasnikova(Masha)、Lev Sverdlin(Col. Ushujima)

演奏:

N. ラビーノヴィチ指揮

録音:

  • V. Sinaisky/BBC Philharmonic (Chandos CHAN 10183)

スチール写真等:

Comment

セルゲーイとゲオルギイの二人の監督は“ヴァシーリエフ兄弟”として活躍していたが、実際には同姓異人。彼らは歴史的な英雄を題材とした「チャパーエフ」という映画で大成功を収めたが、本作「ヴォロチャーエフカの日々」はこれに続く作品であるが、「価値ある作品には程遠かった」1。ショスタコーヴィチ自身が語った歌劇「ヴォロチャーエフカの日々」の構想2(実現はされなかった)から推測すると、この映画は極東における干渉軍と、白衛軍・干渉軍が全ての望みをかけているヴォロチャーエフカを乗っ取った赤軍兵士達を描いた話のようだ。

ショスタコーヴィチはこの仕事について、「一番苦心したのは、この映画の全音楽のライトモチーフとなる歌をつくることだった。……この歌のことをとりだして述べるのは、この映画音楽全体にそれが有機的につながっているからだ。それは映画の前奏曲にも大詰にも、また合唱部分にもひびいていて、その主題はあらゆるところに感じられる。したがってこれは、たいへんむずかしい仕事だった。」3と述べている。また、1967年にはこの映画がリヴァイヴァル上映された際に「『パルチザンの歌』はかなりうまくつくってあった。」4と回想し、そのテーマを交響詩「十月革命」作品131にも利用したと記している。

  1. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, p.258.
  2. グリゴーリエフ, L.・プラテーク, Ja. (編)・ラドガ出版所訳:ショスタコーヴィチ自伝 時代と自身を語る, ナウカ, 1980, p.82.
  3. グリゴーリエフ, L.・プラテーク, Ja. (編)・ラドガ出版所訳:ショスタコーヴィチ自伝 時代と自身を語る, ナウカ, 1980, p.81.
  4. グリゴーリエフ, L.・プラテーク, Ja. (編)・ラドガ出版所訳:ショスタコーヴィチ自伝 時代と自身を語る, ナウカ, 1980, p.409.

ヴィボルグ地区(Выборгская сторона;Vyborgskaya strona)
公開:
1939年2月2日
監督:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
脚本:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
出演
Boris Chirkov(Maksim)、Aleksandr Chistyakov(Mishchenko)、D. Dudnikov(Rapshin)、Mikhail Gelovani(Stalin)、Stepan Kayukov(Dzhoma)、Valentina Kibardina(Natasha)、Nikolai Kryuchkov、Anatoli Kuznetsov (I)(Turnyev)、Leonid Lyubashevsky(Sverdlov)、Maksim Shtraukh(Lenin)、Mikhail Tarkhanov(Polivanov)、Yuri Tolubeyev(Bugai)、Natalya Uzhvij(Yevdokin)、Mikhail Zharov(Dymba)

演奏:

N. ラビーノヴィチ指揮

録音:

  • W. Mnatsakanov/Belarus RTV Symphony Orchestra(RUSSIAN DISC-RD CD 10 018)

スチール写真等:

  • ショスタコーヴィチ大研究, 春秋社, 1994, p.255.(1枚)
  • Mnatsakanov盤解説書, 表紙.(1枚)
  • 瓜生忠夫:ソヴィエト映画, 月曜書房, 1951.(1枚)
Comment

「マクシーム三部作」の完結編。「十月のマクシーム」という題名でも知られる。「マクシーム三部作」は、1941年のスターリン賞第一席を受賞した。舞台は1918年。ここではトロツキイは姿を消し、レーニンのすぐそばにスターリンがつねに寄り添う形で準主役の役どころをつとめるようになる。それはその時期にスターリンが果たした役割とはかけはなれた誇張だったが、1930年代にはそれをあえてしてまで、レーニンの後継者としてのスターリンを売り出す必要があった1。1918年に銀行頭取に指名されたマクシームの当惑のシーンなどに、全体の生真面目な雰囲気を和らげるユーモアも見られる。この三部作を通して、マクシームは非常な人気者となり、エルムレルの「偉大なる市民」などの作品の中にも登場することとなる。また、1941年のドイツ軍侵入初期には、一連の短編映画の中にも姿を現わした。

  1. 山田和夫:ロシア・ソビエト映画史―エイゼンシュテインからソクーロフへ, キネマ旬報社, 1997, pp.170-171.

友人たち(Друзья;Druzya)
公開:
1938年10月1日
監督:
L. アルンシターム
脚本:
L. アルンシターム、N. チーホノフ
原作:
B. カルムイコフ
出演:
Boris Babochkin、Irina Zarubina、Nikolai Cherkasov(Beta, an Ossetian)、Stepan Kayukov、Kote Daushvili、Serafima Birman、Aleksandr Borisov (I)、Ivan Nazarov、Yu. Predtechenskaya

録音:

  • なし

スチール写真等:

Comment

当時有名な人物であった(作品が製作されている頃に“人民の敵”とされた)、B. カルムイコフを主人公にした作品。アルンシタームの映像は、感覚の細やかさが特徴的だった。ショスタコーヴィチはこの作品について、「この仕事で、わたしははじめて民謡と突きあたることになった。この仕事は、自分にとってかくべつおもしろいというべきだろう。わたしは、チェチェン人、イングーシ人、カバルダ=バルカル人の歌や音楽を注意ぶかく研究している。そしてそれらを基礎として、この映画音楽をつくろうとしている」1というコメントを残している。

  1. グリゴーリエフ, L.・プラテーク, Ja. (編)・ラドガ出版所訳:ショスタコーヴィチ自伝 時代と自身を語る, ナウカ, 1980, p.82.

偉大なる市民・第1部(Великий гражданин;Velikii grazhdanin)
公開:
1938年2月13日
監督:
F. エルムレル
脚本:
M. ブライマン、M. ボルシンツォフ、F. エルムレル
撮影:
Abram Kaltsatyi
美術:
Semyon Mejnkin、Nikolai Suvorov、Abram Veksler
出演:
Nikolai Bogolyubov(Shakov, the great citizen)、Boris Chirkov(Maksim, the investigator)、Ivan Bersenyov(Kartishov, the conspirator)、Oleg Zhakov(Borosky, the accomplice)、Zoya Fyodorova(Nadya)、Yevgeni Nemchenko(Bronov (as Ye. Nemchenko))、Yefim Altus(Katz)Pyotr Kirillov(Briantzev)、V. Kiselyov (I)(Gladkikh)、Sergei Kurilov、A. Polibin(Solovyev)、Boris Poslavsky(Sizov)、N. Raiskaya-Dore(Mother Sakhov)、N. Raveshkaya(Olga)、K. Ryabinkin(Kryuchkov)、Georgi Semyonov(Kolesnikov (as G. Semyonov))、Aleksandr Zrazhevsky(Dubo)

録音:

  • なし

スチール写真等:

Comment

「偉大なる市民」シャーホフは、暗殺されたセルゲーイ・キーロフをモデルとしている。“架空”の頭首の暗殺と陰謀者達に対する報復の必要性に関する映画。「第五列」という階級における一人の野心的な政治家の変遷を描いたこのドラマではすべてが台詞に依存していたが、その台詞は行動的であり、個人主義的であることから程遠いその心理描写は、心理描写映画という一つの新しいジャンルの極めて組織的な研究として評価された1。第一部は、アパートという一つのセットの中での三、四人の人物の討論だけに限られており、意欲的な実験作だった。

  1. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, p.261.

銃をとる人(Человек с ружьем;Chelovek c ruzhiyom)
公開:
1938年11月1日
監督:
S. ユトケーヴィチ
脚本:
N. ポゴーディン
原作:
N. ポゴーディン
出演:
Mark Bernes、Serafima Birman、Nikolai Cherkasov(The General)、Boris Chirkov(Yevtushenko)、Zoya Fyodorova(Katya Shadrina)、Mikhail Gelovani(Josef Stalin)、Stepan Kayukov、Nikolai Kryuchkov、Vladimir Lukin(Nikolai Chibisov)、Maksim Shtraukh(V.I. Lenin)、Nikolai Sosnin、Boris Tenin(Ivan Shadrin)

録音:

  • W. Mnatsakanov/Belarus RTV Symphony Orchestra(RUSSIAN DISC-RD CD 10 018)

スチール写真等:

  • Mnatsakanov盤解説書, 表紙.(1枚)
Comment

N. ポゴーディンによるレーニン三部作の第一部に基づく。元は演劇だった。10月革命後の国内戦が舞台で、レーニン俳優マクシーム・シュトラウフとスターリン俳優ミハイール・ゲロワーニの両者が出演している。


偉大なる市民・第2部(Великий гражданин;Velikii grazhdanin)
公開:
1939年11月27日
監督:
F. エルムレル
脚本:
M. ブライマン、M. ボルシンツォフ、F. エルムレル
撮影:
Abram Kaltsatyi
美術:
Semyon Mejnkin、Nikolai Suvorov、Abram Veksler
出演:
Nikolai Bogolyubov(Shakov, the great citizen)、Boris Chirkov(Maksim, the investigator)、Ivan Bersenyov(Kartishov, the conspirator)、Oleg Zhakov(Borosky, the accomplice)、Zoya Fyodorova(Nadya)、Yevgeni Nemchenko(Bronov (as Ye. Nemchenko))、Yefim Altus(Katz)Pyotr Kirillov(Briantzev)、V. Kiselyov (I)(Gladkikh)、Sergei Kurilov、A. Polibin(Solovyev)、Boris Poslavsky(Sizov)、N. Raiskaya-Dore(Mother Sakhov)、N. Raveshkaya(Olga)、K. Ryabinkin(Kryuchkov)、Georgi Semyonov(Kolesnikov (as G. Semyonov))、Aleksandr Zrazhevsky(Dubo)

録音:

  • R. Chailly/Royal Concertgebouw Orchestra(London-POCL-1874)
  • W. Mnatsakanov/Belarus RTV Symphony Orchestra(RUSSIAN DISC-RD CD 10 018)

スチール写真等:

Comment

第1部と合わせて1941年のスターリン賞第一席を受賞した。この映画によってエルムレルは、極めて独創的で力強い監督としての自己を確立した1

  1. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, p.261.

愚かな小ねずみ(Глупый мышонок;Glupyi myshonok)
公開:
1940年9月13日
監督:
M. ツェハノフスキイ
脚本:
S. マルシャーク、M. ツェハノフスキイ
原作:
S. マルシャーク

録音:

  • W. Mnatsakanov/Belarus RTV Symphony Orchestra(CITADEL-CTD 88129)
  • R. Chailly/Royal Concertgebouw Orchestra(London-POCL-1874、A. Cornall編)など

スチール写真等:

  • Mnatsakanov盤解説書, p.3.(1枚)
Comment

マルシャーク原作によるアニメ映画。眠ろうとしない赤ちゃんネズミについての物語。お母さんネズミは子守歌を歌い、近くに住むいろいろな動物達(鵞鳥、豚、蛙、馬、カワカマス)は乳母代わりにそれぞれの子守歌を歌う。しかし、赤ちゃんネズミは無礼な言葉で彼らの努力を拒絶する。その後、猫が乳母として駆り出されるが、猫はしばらくネズミのごちそうにありついていなかったことを思い出し、乳母役を喜んで引き受けてなだめるような子守歌を歌い始める。すると眠りが赤ちゃんネズミに訪れ、全ては静かになる。雄鳥が朝を告げ、お母さんネズミが赤ちゃんネズミのベッドを見てみると、ベッドはからっぽであった。中庭では、猫がなだめるような子守歌を繰り返しながら、赤ちゃんネズミを食べる準備をしている。年老いた犬がその歌声を聴き、何が起ろうとしているか理解し、猫に向かって突進し、短い小競り合いの後、猫を追い出して赤ちゃんネズミを母親のところに戻す。お母さんネズミはもう一度子守歌を歌い、赤ちゃんネズミは眠りに戻る。(原作では赤ちゃんネズミは猫に食べられてしまうが、映画では犬に助けられるように変更されている。)

ショスタコーヴィチはこの仕事について、次のように語っている。「いまわたしは、マルシャークの『おろかな子ねずみの話』の短篇動画の音楽をつくっている。ともあれ、動画も、それにふさわしい音楽表現を必要とするきわめて興味ぶかいものである。それをつくることに大きな満足をおぼえながらわたしは仕事をしている。これはわたしの最初の子ども映画音楽だ。どうかわたしの試みが成功するように、そして子どもたちがその音楽をよろこんでくれるように」1

  1. グリゴーリエフ, L.・プラテーク, Ja. (編)・ラドガ出版所訳:ショスタコーヴィチ自伝 時代と自身を語る, ナウカ, 1980, p.94.

コルジーンキナの出来事(Приключение Корзинкинои;Priklyuchenie Korzinkinoi)
公開:
1940年11月11日
監督:
K. ミンツ

録音:

  • G. Rozhdestvensky/USSR Ministry of Culture Symphony Orchestra(BMG-74321 59058 2、G. Rozhdestvensky編)
  • W. Mnatsakanov/Belarus RTV Symphony Orchestra(CITADEL-CTD 88129、G. Rozhdestvensky編)

スチール写真等:

  • Mnatsakanov盤解説書, p.2.(1枚)
Comment

ミンツ監督による、レンフィルムの喜劇シリーズの第一弾として作られた。しかし大祖国戦争が勃発したため、シリーズはこの一作だけで中断された。ショスタコーヴィチの音楽の中には、チャイコーフスキイのバレエ「白鳥の湖」から断片、グノーの歌劇「ファウスト」からメフィストフェレスのアリア、ムーソルグスキイの「蚤の歌」などが織り込まれていた。


ゾーヤ(Зоя;Zoya)
公開:
1944年11月22日
監督:
L. アルンシターム
脚本:
L. アルンシターム、B. チルスコフ
出演:
Galina Vodyanitskaya(Zoya)、Tamara Altseva(Zoya's Teacher)、Aleksei Batalov、Anatoli Kuznetsov (I)(Boris Fomin)、Rostislav Plyatt(German Soldier)、Boris Podgornij(German Officer)、Boris Poslavsky(Owl)、Nikolai Ryzhov(Zoya's Father)、Yekaterina Skvortsova(Zoya as a child)、Kseniya Tarasova(Zoya's Mother)、Yekaterina Tarasova、Vladimir Volchek(Komsomol Secretar)

録音:

  • M. Shostakovich/Bolshoi Theatre Orchestra(BMG-74321 66981 2、組曲版)
  • M. Jurowski/Rundfunk Symphonie Orchester, Berlin(CAPRICCIO-10 405、組曲版)
  • W. Mnatsakanov/Byelorussian Radio and TV Symphony Orchestra(RUSSIAN DISC-RD CD 10 002、組曲版)

スチール写真等:

  • Mnatsakanov盤解説書, 表紙.(1枚)
  • リュボーフィ・コスモデミヤンスカヤ・中本信幸訳:ゾーヤとシューラ, 青木文庫, 黄1, 1970.
Comment

大祖国戦争初期における18歳のパルチザンの少女、ゾーヤ・コスモデミヤンスカヤを主人公にした作品。若い娘の英雄的な死を物語り、彼女の短い生涯を通して第二次大戦前のソ連の15年間を振り返っており、1946年のスターリン賞第一席を受賞した。実在のパルチザン少女の成長を記録映画を織りまぜて展開する新機軸で注目された1。ショスタコーヴィチの音楽は、全35曲から成る(内9曲紛失)。

  1. 山田和夫:ロシア・ソビエト映画史―エイゼンシュテインからソクーロフへ, キネマ旬報社, 1997, p.147.

普通の人々(Простые люди;Prostye lyudi)
公開:
1956年8月25日
監督:
G. コージンツェフ、L. トラウベルグ
脚本:
G. コージンツェフ
出演:
Yelena Korchagina-Aleksandrovskaya、Yuri Tolubeyev、Boris Zhukovsky

録音:

  • なし

スチール写真等:

Comment

コージンツェフとトラウベルグの最後の共同作品となった。1945年に作品は完成していたが、公開は1956年に延期された。


若き親衛隊(Молодая гвардия;Molodaya gvardiya)
公開:1948年10月11日(第1部)、1948年10月25日(第2部)
監督:
S. ゲラーシモフ
脚本:
S. ゲラーシモフ
原作:
A. ファジェーエフ
撮影:
V. ラポポルト
出演:
Vladimir Ivanov (I)(Oleg Koshevoy)、Inna Makarova(Lubov Shertsova)、Tamara Makarova(Oleg's Mother)、Nonna Mordyukova(Yuliana Gromova)、Boris Bityukov(Ivan Zemnukhov)、Sergei Bondarchuk(Valko)、S. Romanov(Ivan Turkenich)、Lyudmila Shagalova(Valeriya Borz)、Olesya Ivanova(Klavdiya Kovalova)、Vyacheslav Tikhonov(Vladimir Osmukhin)、Viktor Avdyushko、Sergei Gurzo、Viktor Khokhryakov、Klara Luchko、Yevgeni Morgunov、Georgi Yumatov

演奏:

A. スヴェシニコフ/ソヴィエト国立交響楽団&合唱団

録音:

  • G. Gamburg/USSR Cinematographic Orchestra(OLYMPIA-OCD 201、組曲版)
  • W. Mnatsakanov/Byelorussian Radio and TV Symphony Orchestra(RUSSIAN DISC-RD CD 10 002、組曲版)

スチール写真等:

  • Mnatsakanov盤解説書, 表紙.(1枚)
  • 瓜生忠夫:ソヴィエト映画, 月曜書房, 1951.(3枚)
Comment

第二次世界大戦中、クラスノドン地方の少年少女が組織したナチス軍に対する果敢な地下闘争と悲壮な最期を描いたファジェーエフの小説の映画化。1949年のスターリン賞第一席を受賞した。原作は1945年に雑誌「ズナーミヤ(旗)」に掲載され、その後1947年と1951年に改訂されているが、映画は1947年版に基づいている。二部構成のこの映画には、霊感の息吹と豊かさがあったと高く評価された。。この映画はソ連国立映画大学(VGIK)の卒業生で、後に有名になった新人俳優達を起用していたのも、大きな特徴。ショスタコーヴィチはかなり熱心にこの仕事に取り組んだようだが、「音楽は、劇的な要素が前面に出て、とくに序曲はクラスノドンの若者達の英雄的な形象を印象的に描き出してはいるが、彼の音楽に新しいページを開くものとはいいきれなかった」1とされた。

  1. 井上頼豊:ショスタコーヴィッチ, 音楽之友社, 1957, p.182.

ピロゴーフ(Пирогов;Pirogov)
公開:
1947年12月16日
監督:
G. コージンツェフ
脚本:
Y. ゲルマン
出演:
Nikolai Cherkasov、Vladimir Chestnokov、Aleksei Dikij、Konstantin Skorobogatov

録音:

  • M. Shostakovich/Bolshoi Theatre Orchestra(BMG-74321 66981 2、組曲版)
  • V. Fedoseyev/Moscow Radio Symphony Orchestra(MUSICA CLASSIC-780005-2、組曲版第3曲「ワルツ」のみ)など

スチール写真等:

  • 瓜生忠夫:ソヴィエト映画, 月曜書房, 1951.(2枚)
Comment

医師であった偉人ニコラーイ・ピロゴーフの伝記映画。1948年のスターリン賞第二席を受賞し、日本では「先駆者の道」という題名で公開された。ピロゴーフはクリミヤ戦争などで活躍した従軍医師の先駆的存在で、野戦病院で初めて麻酔を使ったことでも知られる。ショスタコーヴィチの音楽については、二時間近い映画に対して音楽はわずか五ロール分しか書かれていないことで、「意識され過ぎた簡素化であり、ロシア進歩的医学の先駆者ピロゴーフの形象化にどこまで役立ったかは多分に疑問があった」1とされた。

  1. 井上頼豊:ショスタコーヴィッチ, 音楽之友社, 1957, p.162.

ミチューリン(Мичурин;Michurin)
公開:
1949年1月1日
監督:
A. ドヴジェンコ
脚本:
A. ドヴジェンコ
出演:
Grigori Belov(Ivan V. Michurin)、Sergei Bondarchuk、Fyodor Grigoryev(Kartashov)、Vladimir Isayev(Mayer)、Viktor Kokhryakov(Riabov)、Alla Larionova、Yuri Lyubimov(Translator)、Pavel Shamin(Terentl)、Vladimir Solovyov(M.I. Kalinin)、Sergei Tsenin(Byrd)、Aleksandra Vasilyeva(Mme. Michurina)、Mikhail Zharov(Khrenov)

録音:

  • M. Shostakovich/Moscow Radio Symphony Orchestra(BMG-74321-32041-2、組曲版)など

スチール写真等:

  • 瓜生忠夫:ソヴィエト映画, 月曜書房, 1951.(2枚)
Comment

農学者イヴァーン・ミチューリンの伝記映画で、1949年のスターリン賞第二席受賞作。主人公は、食欲をそそる霜や旱魃に強い果物を産み、全国に耕作された「ミチューリンの変種」と呼ばれる果樹の新種を紹介した農学者で、ミチューリン農法の創始者。G. サドゥールは、ショスタコーヴィチの音楽について次のように述べている。「『ミチューリン』は、優れた抒情詩的映画作家ドヴジェンコによってショスタコヴィッチの力強い音楽に支えられた四つの大きな交響曲的速度にわけられていた。音楽と色彩の調和は、愛、死、人間が形を変化させた自然、科学、創造的革命といった大きなテーマの中で結び付いていた。第二次大戦後、色彩の可能性がこれ以上の技巧と革新をもって利用された映画はなかった。」1ちなみにショスタコーヴィチは、「映画『ミチューリン』でした仕事は、わたしをオラトリオ『森の歌』にみちびいてくれた。」2と述べている。

  1. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, p.339.
  2. グリゴーリエフ, L.・プラテーク, Ja. (編)・ラドガ出版所訳:ショスタコーヴィチ自伝 時代と自身を語る, ナウカ, 1980, p.232.

エルベ河での出会い(Встреча на Эльбе;Vstrecha na Elbe)
公開:
1949年3月16日
監督:
G. アレクサンドロフ
出演:
Boris Andreyev (I)、Vladlen Davydov、Lyubov Orlova

演奏:

「祖国の歌(エルベ河)」はN. オブホヴァの歌唱

録音:

  • P. Robeson(B)/A. Erokhsin(pf)(MELODIYA-C60 24293 007、組曲版第8曲)
  • B. Aleksandrov/Red Banner Ensemble(MK-D 5062-3、組曲版第2&8曲)
  • 芥川也寸志/中央合唱団&新星日本交響楽団(ONGAKU CENTER-CCD769、組曲版第2曲)など

スチール写真等:

  • 瓜生忠夫:ソヴィエト映画, 月曜書房, 1951.(2枚)
Comment

戦時中のエピソードを扱った映画で、1949年のチェコスロヴァキア平和賞、1950年のスターリン賞第一席を受賞した。アレクサンドロフの戦後最高の成功作。ソ連軍少佐ニキータ・クズミンと米軍少佐ジェームス・ヒルの友情と、ドイツのある都市の市長となったジットリッヒ教授をめぐるファシストの陰謀に対する共同の闘いが描かれている。米ソ関係が悪化していた1949年に、こういう内容の映画が作られたのは不思議な感じがする。ショスタコーヴィチの音楽は全34曲から成る(一部紛失)が、中でも主題歌は大ヒットし、日本でもショスタコーヴィチを紹介する際に「エルベ河」の作者とされることが少なくなかったようだ。エルベ河畔のソヴィエト兵士達が、激戦の後、はるかの祖国を偲んで歌う「祖国の歌(エルベ河)」は、バヤンの音調に基礎をおいた民族的抒情詩である。一方、映画のフィナーレで歌われる「平和の歌」は、この映画の中心思想である劇中のクズミン少佐の言葉「二つの偉大な国家ロシアとアメリカが仲良く暮すならば、それは全世界にとって喜ぶべきことである」の音楽的表現であるとともに、作曲者の思想の表現であるともされた。「平和の歌」は、完成されたリアリズム歌曲であるとの評価を得た1

  1. 井上頼豊:ショスタコーヴィッチ, 音楽之友社, 1957, p.187.

ベルリン陥落(Падение Берлина;Padenie Berlina)
公開:
1950年1月21日
監督:
M. チアウレーリ
脚本:
M. チアウレーリ、P. パヴレンコ
原作:
撮影:
出演:
Mikhail Gelovani(Iosef Stalin)、Boris Andreyev (I)(Alexei Ivanov)、M. Kovalyova(Natasha Vasilnyeva)、V. Savelyev(Adolf Hitler)、G. Timoshenko(Kostya Zavchenko)、A. Urasalyev(Yusupov)、Nikolai Bogolyubov(Factory Superintendant Kumchinsky)、Jan Werich(Hermann Goering)、S. Giatsyntova(Mother Ivanov)、K. Roden(Charles Bedston)、Viktor Stanitsyn(Winston Churchill)、Oleg Frelikh(Franklin D. Roosevelt)、M. Novakova(Eva Braun)、Viktor Lyubimov(General)、M. Petrunkin(Josef Goebbels)、G. Timoshenko(Kostya Zavchenko)、Boris Tenin(Gen. Chuikov)、Boris Livanov(Gen. Rokossovsky )、Sergei Blinnikov(General Konev)、K. Bartashevich(Gen. Sokolovsky)、Fyodor Blazhevich(Marshal Zhukov)

演奏:

A. ガーウク/モスクワ放送交響楽団&合唱団

録音:

  • J. Serebrier/Belgian Radio Symphony Orchestra(RCA-BVCC-30、組曲版)など

スチール写真等:

  • VHS(にっかつビデオ:FP-2012)
  • Jurowski盤解説書, p.2 & 19.(4枚)
  • 瓜生忠夫:ソヴィエト映画, 月曜書房, 1951.(2枚)
Comment

スターリン個人崇拝の典型的な証拠として引用されることが多い映画。1956年2月のソ連共産党第20回大会で行われたスターリン批判の「フルシチョフ秘密報告」では、この映画について次のように述べられている1。「スターリンは自分が偉大な司令官であるかのように、その人気を高めるのに大変骨を折りました。ありとあらゆる方法を用いてスターリンは、大祖国戦争におけるソ連の勝利が、すべてただ彼スターリンの勇敢さ、大胆さ、天才によってのみ得られたものである、という考えを国民に広めようとしました。ちょうどクジマ・クリュチコフと同じように、彼も七人の人間を槍で突き刺したというわけであります[場内騒ぐ]。たとえば、わが国の歴史映画や戦争映画、それに若干の文学作品を取り上げてみましょう。そういう作品を見ますと、吐き気を催したくなります。こういう作品の本当のねらいは、スターリンを軍事的天才として褒め称えるという主題を広めることにあるのです。『ベルリン陥落』という映画を思い出してみましょう。その中で行動しているのはスターリンだけです。彼は裕まで命令を与えていますが、そこにはたくさんの空の椅子があるだけです。そこにたった一人、ある人物がスターリンの近くに寄って来て、何かを報告します。これぞ、スターリンの忠実なる従者、ポスクリョブィシェフなのであります[場内に笑い]。一体、軍司令部はどこにあるのでしょう。政治局はどこにあるのでしょう。政府はどこにあるというのでしょう。彼らは何をしており、何を仕事としているのでしょう。こういうことについて、この映画は何一つ描いておりません。スターリンがこれらいっさいのものの代わりに行動しているのです。彼は誰のことも考慮しておりませんし、誰にも助言を求めていないのです。すべてのことが、このような偽りの光の中で描かれています。なぜでしょうか。それは、事実と歴史的真理にさからっても、スターリンを栄光で包むためです。ここで疑問が生じましょう。戦争のすべての重荷をその双肩に背負った軍人たちは一体どこに行ってしまったのでしょうか。この映画の中には一人もいないのです。スターリンが軍人たちの登場する余地を塞いでしまったからです。」

この映画に見られるスターリン讚美の調子は、確かに凄まじい。小学校の女教師ナターシャは、生徒達を連れて見学した製鉄所(現在の環境保護団体が見たら卒倒するような煙を吹き上げている)で、優秀な労働者アリョーシャと出会う。彼はその高い生産能力を表彰されるのだが、スターリンに呼び出されて祝福されるシーンでは、スターリンの偉大さとアリョーシャ(=一般国民)の卑小さが強調されている。そのうちにアリョーシャとナターシャは恋仲になるのだが、突然のドイツ軍侵攻によってアリョーシャは前線へ、ナターシャは強制収容所へと引き裂かれる。そして長大な戦争描写が始まる。ここでは、フルシチョフが述べた通り、徹底して天才的な軍司令官としてのスターリンが描写される。ヒトラーとナチ党の一派はもちろん、ヤルタ会談のルーズベルトやチャーチルまでもが引き立て役に総動員される(これがまた妙に似ている)。そして戦争はめでたく勝利の内に終り、空港でナチスから開放された世界中の労働者達が各国の国旗を持ってスターリンを出迎える。そしてスターリンが感動的な演説をしている最中に、アリョーシャとナターシャは再会を果たす。そして、ナターシャはなぜか、スターリンの前に出て感謝を述べるのだ。寛大な微笑みを浮かべながらスターリンは「平和を守っていこう」と演説し、映画は終る。

サドゥールはこの映画について次のように述べている2。「チアウレリは『誓い』46と『ベルリン陥落』50によって<記念碑的>映画の大家として世に認められた。『誓い』はスターリンと或るロシヤの家族を物語の中心にしながら、レーニンの死から第二次世界大戦の勝利にいたるまでの二十年間のソ連の歴史の跡をたどったものであった。『ベルリン陥落』はこれらの二つの要素にヒトラー政府の首脳部を引き立て役としてつけ加えていた。莫大な制作費によってこの監督は、恐らく第二次大戦後で最も大規模な映画を演出することができた。かつて彫刻家であったこのグルジヤ出身の監督は、この作品の中で古い吟遊詩人の詩想と庶民的な版画製作者たちが素朴な絵画を再び接合させている驚くべき単純化とを再び見出していた。第二部は最も感銘的で、ベルリンに加えられた攻撃、大砲の轟音、市街戦、ヒトラー総統の死(意識的に誇張された特徴で示された)、国会議事堂に加えられた最後の攻撃、勝利(とスターリン)を祝福する民衆のお祭りなどを描いていた。これらの特色と並んでこの作品には確かにその主人公を無限に讚美するという欠陥があった。後年『ベルリン陥落』は、スターリンの死に先だつ数年の間、個人崇拝がその原因となった行き過ぎの例とされたのであった。ソ連民衆の努力、英雄的な闘い、恐るべき犠牲は明らかに天才的なこの監督の無感動な穏健さによってぼかされていた。」

とはいえ、時代も国も共有していない我々にとっては、これは一種の戦争映画と割り切って見ることも可能だ。戦闘シーンの壮大さは傑出しているし、少しでも世界史に興味のある人であれば、各国の著名人達のそっくりさんが次々と登場してくるのを楽しむことができるだろう。何とこの作品は、日本でもヴィデオ化(日活)されたことがあり、レンタル・ショップ等の“戦争コーナー”で見つけることも(やや難しいだろうが)できるはずだ。ショスタコーヴィチの音楽は、全18曲から成るのだが、この映画を見てショスタコーヴィチの音楽が印象に残る人はまずいないだろう。随所に恐るべき工夫が施されたこの“怪作”、是非一度ご覧頂きたい。

ちなみに、この映画でスターリンを演じているゲロワーニについては、『証言』に次のような記述がある3。「スターリンを演じたゲロワーニという俳優には、専用のメーキャップ係がいた。その男は同志スターリンのメーキャップの専門家で、そのほかにはなんの仕事もしなかった。また、撮影のときにゲロワーニが着る有名なスターリンの軍服は、「モス・フィルム」撮影所の特別金庫に保管されていた。余計な埃が軍服につかないようにするためで、同志スターリンの軍服に埃がついていた、などと誰かに密告されたら、たいへんなことになる。それは、言ってみれば、同志スターリンその人を汚すのとほとんど同じだったのである。」何か、ますます観てみたくなりませんか?

  1. 志水速雄:フルシチョフ秘密報告「スターリン批判」全訳解説, 講談社学術文庫, 1977, pp.92-93.
  2. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, pp.338-339.
  3. ヴォルコフ, S. (編)・水野忠夫訳:ショスタコーヴィチの証言, 中公文庫, 1986, p.441.

ベリーンスキイ(Белинский;Belinsky)
公開:
1953年6月4日(公開されなかったとの説1もある。)
監督:
G. コージンツェフ
脚本:
Y. ゲルマン、G. セレブロフスカヤ
出演:
Sergei Kurilov(Belinsky)、Aleksandr Borisov (I)(Gertsen)、Georgi Vitsin(Gogol)、Yuri Tolubeyev(Schepkin)、Mikhail Nazvanov(Nicholas the I)、M. Afanasyev(Lermontov)、I. Litovkin、Boris Dmokhovsky、Nina Mamayeva、Vladimir Belokurov、Igor Gorbachyov

録音:

  • W. Mnatsakanov/Belarus RTV Symphony Orchestra(CITADEL-CTD 88135)

スチール写真等:

Comment

「ピロゴーフ」、「ミチューリン」などに繋がる、歴史上の偉人の伝記映画。19世紀前半のロシア文学の輝かしい研究の遺産を残し、「猛烈なヴィッサリオーン」として知られるロシアの批評家ヴィッサリオーン・ベリーンスキイが主人公。ショスタコーヴィチは、映画音楽の中にひろく民謡や民間のメロディーを取り入れている。

  1. Danilevich, Lev Vasilievich (ed.), Dmitri Shostakovich --- zhizn i tvorchestvo, Sovetskii Kompozitor, Moscow, 1980, 304pp.

忘れがたい1919年(Незабываемый 1919-й;Nezabyvayemyi 1919)
公開:
1952年3月3日
監督:
M. チアウレーリ
脚本:
M. チアウレーリ、A. フィリモノフ
原作:
V. ヴィシネフスキイ
撮影:
出演:
Boris Andreyev (I)、Mikhail Gelovani、Viktor Koltsov(Lloyd George)、L. Korsakov(Woodrow Wilson)、M. Kovalyova、Sergei Lukyanov、I. Molchanov(V.I. Lenin)、Yevgeni Samojlov、Viktor Stanitsyn(Sir Winston Churchill)、Gnat Yura(Clemenceau)

録音:

  • A. Gauk/State Radio Orchestra of the USSR(MONITOR-MC 2015、組曲版第1〜4および7曲)
  • D. Alexeev(pf), J. Maksymiuk/English Chamber Orchestra(CLASSICS FOR PLEASURE-CD-CFP 4547、組曲版第5曲)

スチール写真等:

Comment

国内戦におけるスターリンの偉大な功績に焦点が当てられた作品で、「ベルリン陥落」で頂点に達したスターリンの個人崇拝を示している。反体制文学者のアレクサーンドル・ソルジェニーツィンは、1964年の長篇小説「煉獄のなかで」の中でこの映画について(スターリン自身の言葉として)次のように皮肉な記述をしている:

…自分の登場する映画を―…ヴィシネフスキイの『忘れえざる一九一九年』を鑑賞した。

芯は疲れたが、…多いに彼の気に入った。(…スターリン賞ものだ!)これからは大祖国戦争で果たした自分の役割ばかりでなく、内戦で果たした自分の役割もますます正しくえがき出されていこう。自分があのころすでにどんな大人物だったかは、これらの映画からも明らかだ。今も記憶に残っているが、あまりにも人を信じやすい軽率なレーニンを自分は何度諌言し矯正してやったことだろう。その上ヴィシネフスキイが、このスターリンの口から言わせたことばが実にいい―。『働く者一人ひとりが自分の考えを述べる権利をもっているのだ!―いつかそういう一項を憲法に入れよう』これは何を意味するか?その意味は、ユデーニチの軍からペトログラードを防衛しているとき、このスターリンはすでに将来の民主的憲法のことを考えていたということだ。当時それはプロレタリア階級独裁の名で呼ばれてはいたければ、いずれにせよこれが事実に忠実であることはまちがいない!

木村浩・松永緑(訳):世界文学全集第43巻, 集英社, p. 94, 1972.

チアウレーリは「誓い」と「ベルリン陥落」の二作品によってこの種の作品の大家と認められたが、本作ではあまりにも個人崇拝の側面が強く押し出されているため、前作ほどの評価は得られなかった。『ショスタコーヴィチの証言』の中には「剣を手に持った彼(スターリン)が装甲列車の踏台に乗っている場面があった。この空想的な場面は、もちろん、現実とはなんのかかわりもなかった。しかし、スターリンはそれを見ては、感嘆していた。『スターリンはなんと若く、美しかったことか。えい、スターリンはなんと美男子だったことか』。」1というエピソードが紹介されている。

  1. ヴォルコフ, S. (編)・水野忠夫訳:ショスタコーヴィチの証言, 中公文庫, 1986, p.441.

偉大な川の歌(Песня великих рек;Pesnya velikikh rek)
公開:
1954年11月
監督:
J. イヴェンス

演奏:

「団結の歌」はP. ロブスンの歌唱

録音:

  • 独語による「団結の歌」の録音がある模様

スチール写真等:

Comment

東独DEFA社制作のドイツ民主共和国労働組合記録映画である。これは、六つの河(ナイル、ガンジス、ミシシッピー、アマゾン、揚子江、ヴォルガ)で象徴される世界の平和と人々の幸福のための運動を描いた映画。サドゥールは、「これらの河をテーマとして世界中から集められたドキュメンタリー映画の断片(この映画のために新たに撮影されたものも多かった)を集め、力強い一致団結をみせた現代のまごうことなき交響曲を作ることに成功していた。ショスタコヴィッチ作曲の音楽を伴奏として展開される最初のシークェンスは、……古典的な完璧の域に達していた。」1と評している。ちなみに、主題歌「団結の歌」を歌ったロブスンは、当時アメリカからの出国を許可されていなかったため、不完全な自分達のスタジオで録音してテープを東ドイツへ送り届けたというエピソードが残っている。ロブスンが当初受け取った楽譜には作曲者が記されていなかったため、後にこの曲がショスタコーヴィチの作であることを知って、大変驚いたらしい。

  1. サドゥール, G.・丸尾 定訳:世界映画史1 第二版, みすず書房, 1980, p.344.

馬あぶ(Овод;Ovod)
公開:
1955年4月12日
監督:
A. ファインツィンメル
脚本:
E. ガブリロヴィチ
原作:
E. L. ヴォイニッチ
出演:
Oleg Strizhenov(Arthur)、Marina Strizhenova(Gemma)、Nikolai Simonov(Cardinal Montanelli)、Vladimir Etush(Martini)、Antoni Khodursky(Grassini)、Vadim Medvedev(Giovanni)、Grigori Shpigel(James)、Ruben Simonov(Father Cardi)、Pavel Usovnichenko(Giuseppe)、Yelena Yunger(Julia)

録音:

  • E. Khachaturian/USSR Cinema Symphony Orchestra(CLASSICS FOR PLEASURE-CD-CFP 4463、組曲版)
  • E. Svetlanov/USSR State Symphony Orchestra(Victor-VIC-2288、組曲版第8曲「ロマンス」のみ)
  • R. Chailly/Philadelphia Orchestra(London-POCL-1688、抜粋)など多数

スチール写真等:

  • Grin盤解説書, p.12.(パンフレット表紙)
Comment

19世紀、オーストリアに占領されていたイタリアが舞台。「馬あぶ」とは、イタリア独立運動のリーダー、アルトゥールのことである。彼は若い頃、故意にではないが、同じ独立運動の仲間を裏切ってしまう。彼は愛するゲンマから激しく拒絶される。また、彼を育ててくれた聖職者モンタネッリが実の父親であることを知る。自らに失望した彼は姿を消す。13年後、彼はリヴァレツという名前で独立運動に復帰するが、負傷してオーストリア人に捕えられる。脱出に失敗し、モンタネッリ枢機卿との短い会見の後、銃殺される。モンタネッリは深い後悔の念にかられる。ゲンマは、遅ればせながら、自分が彼を愛し続けていたことに気付く。ショスタコーヴィチの音楽は全24曲から成り、中でも「ロマンス」は人気作となった。


第1軍用列車(Первый эшелон;Pervyi eshelon)
公開:
1956年4月29日
監督:
M. カラトーゾフ
脚本:
N. ポゴディン
出演:
Vsevolod Sanayev、Sergei Romodanov、Oleg Yefremov、Tatyana Doronina、Izolda Izvitskaya、Eduard Bredun、Nikolai Annenkov、Khoren Abramyan、Nina Doroshina、Nurmukhan Zhanturin、Aleksei Kozhevnikov

録音:

  • All-Union Song Ensemble(第3曲)/Lazareva & Lobacheva(第9曲)(MK-D 5062-3)

スチール写真等:

Comment

処女地の開拓に従事する人達の生活を題材とした映画。主題歌「若者達」はヒットした。


5日5晩(Пять дней, пять ночей;Pyat dnei, pyat nochei)
公開:
1961年11月23日(1961年2月27日との説1もある。)
監督:
L. アルンシターム
脚本:
L. アルンシターム
出演:
Annekathrin Bürger、Barbara Dittus、Heinz-Dieter Knaup、Wilhelm Koch-Hooge、Marga Legal、Wjatscheslaw Safonow、Wsewolod Sanejew

録音:

  • T. Kuchar/National Symphony Orchestra of Ukraine(NAXOS-8.553299、組曲版)など

スチール写真等:

  • Judo盤解説書, pp. 18, 27 and 33.(3枚)
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東独DEFA社との共同製作。英米軍の空爆を避けてナチス・ドイツが隠したドレスデン美術館の絵画を、戦後ソ連軍が救出したというエピソードに基づいた映画である。戦争で心身共に傷付いたドイツ人の青年画家ポール・ナウマンを主人公とし、貴重な人類遺産である厖大な量の絵画(レンブラントの「システィナ礼拝堂」をも含む)の救出にかけたソ連の熱意と、ナチスの暴挙に対抗する労働者達のヒューマニズムを高らかに描きあげている。ショスタコーヴィチはこの音楽を滞在中のドレスデンで書き上げ、同時に傑作弦楽四重奏曲第8番作品110も作曲した。ショスタコーヴィチの音楽は、全部で18から成る。

  1. Collected Works, Volume 42, Muzyka, No. 10890, 1987.

ハムレット(Гамлет;Gamlet)
公開:
1964年4月24日(モスクワ)
監督:
G. コージンツェフ
脚本:
G. コージンツェフ
原作:
W. シェイクスピア
撮影:
J. グリツィウス
出演:
Innokenti Smoktunovsky(Hamlet)、Anastasiya Vertinskaya(Ophelia)、Mikhail Nazvanov(King)、Elsa Radzinya(Queen)、Yuri Tolubeyev(Polonius)、Vladimir Erenberg(Horatio)、Stepan Oleksenko(Laertes)、Igor Dmitriyev(Rosencrantz)、Grigori Gaj、Viktor Kolpakov(Gravedigger)、A. Krevalid(Fortinbras)、Vadim Medvedev(Guildenstern)

演奏:

N. ラビーノヴィチ/レニングラード・フィルハーモニー交響楽団

録音:

  • L. Grin/Berlin Radio Symphony Orchestra(CAPRICCIO-10 298、組曲版)など

スチール写真等:

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ボリース・パステルナークのロシア語訳に基づいた映画化。1964年の全ソ映画祭最優秀音楽賞、ヴェネチア映画祭審査員特別賞を受賞した名作。ショスタコーヴィチの音楽は全部で34曲から成る。


生涯のような一年(Год, как жизнь;God, kak zhizn)
公開:
1965年
監督:
G. ロシャーリ
脚本:
G. ロシャーリ
原作:
G. セレブリャコヴァ
出演:
Aleksei Alekseyev、Vladimir Balashov、Zinovi Gerdt、Olga Gobzeva、Artyom Karapetyan、Svetlana Kharitonova、Igor Kvasha、Vasili Livanov、Klara Luchko、Nikita Mikhalkov、Dmitri Mirgorodsky、Andrei Mironov、Rufina Nifontova、Anatoli Solovyov、Lev Zolotukhin

録音:

  • M. Shostakovich/Moscow Radio Symphony Orchestra(MELODIYA-CM 02523-4、組曲版)

スチール写真等:

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マルクスの伝記映画。ショスタコーヴィチは、1963年からこの映画に関わっていることを発言している。テーマがテーマだけに製作は難航したようで、ショスタコーヴィチは次のような言葉を残している。「これもむろん、作曲家にとっては非常にむずかしい仕事にはちがいない。だが、むずかしいのは作曲家にとってだけでなく、科学的共産主義の偉大な創始者、その人を演ずる俳優にとっても、また監督にとっても、だれにとってもむずかしいのは当然のことだと思う。」1なお、ヴォールコフによると2彼がショスタコーヴィチと知り合いになった頃に、丁度この仕事を手がけていたようだ。

  1. グリゴーリエフ, L.・プラテーク, Ja. (編)・ラドガ出版所訳:ショスタコーヴィチ自伝 時代と自身を語る, ナウカ, 1980, p.357.
  2. ヴォルコフ, S. (編)・水野忠夫訳:ショスタコーヴィチの証言, 中公文庫, 1986, p.7.

ソーフィヤ・ペローフスカヤ(Софья Перовская;Sofya Perovskaya)
公開:
1968年1月(1968年5月6日との説1もある。)
監督:
L. アルンシターム
原作:
E. ガブリロヴィチ

録音:

  • W. Mnatsakanov/Byelorussian Radio and TV Symphony Orchestra(RUSSIAN DISC-RD CD 10 018)
  • R. Chailly/Royal Concertgebouw Orchestra(LONDON-POCL-1874、ワルツのみ)

スチール写真等:

  • Mnatsakanov盤解説書, 表紙.(1枚)
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1881年3月1日皇帝アレクサーンドル2世の暗殺事件を引き起こした、「人民の希望(Narodnaya Volya)」と呼ばれるテロ組織の女性活動家の生涯と処刑を描いた作品。ショスタコーヴィチの音楽は18曲から成るが、内2曲は不明である。

  1. Collected Works, Volume 42, Muzyka, No. 10890, 1987.

リア王(Король Лир;Korol Lir)
公開:
1969年
監督:
G. コージンツェフ
脚本:
G. コージンツェフ
原作:
W. シェイクスピア
撮影:
J. グリツィウス
出演:
Regimantas Adomaitis(Edmund)、Oleg Dal(Fool)、Jüri Järvet(King Lear)、Elsa Radzinya(Goneril)、Valentina Shendrikova(Cordelia)、Galina Volchek(Regan)

録音:

  • M. Jurowski/Rundfunk-Symphonie-Orchester, Berlin(CAPRICCIO-10 397、抜粋)
  • J. Serebrier/Belgian Radio Symphony Orchestra(RCA-7763-2-RC、抜粋)

スチール写真等:

  • Jurowski盤解説書, 表紙&裏表紙& p. 14 & p. 23.(4枚)
  • Serebrier盤解説書, 表紙.(1枚)
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ボリース・パステルナークのロシア語訳に基づいた映画化。モノクロによる重厚な画面と、典型的なリアリスティックな演出が非常に格好良い。大勢のエキストラを使用した群衆のシーンなどは特に素晴らしい。ショスタコーヴィチがつけた音楽は全部で70曲になるが、それらのほとんどは効果音のような短いもの。中でも、映画中頻繁に出てくるファンファーレは「ノーバルブの軍隊ラッパで、一体どうやって吹くんだ?」と突っ込みたくなるほど、極めてショスタコーヴィチ的。嵐のシーンの音楽も凄い。


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Last Modified 2009.02.12

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