“The Life and Works of Dmitri SHOSTAKOVICH”内容紹介

CHANDOS社の“Cultural Heritage Series”の第1巻としてリリースされたDVD/CD-ROM“The SHOSTAKOVICH Multimedia Experience”は、ショスタコーヴィチ・フリークにとって垂涎の資料がふんだんに盛り込まれた、ファン必携のアイテムです。写真や映像、自筆譜などなかなか目にすることのできない資料が厖大に収録されており、繰り返し見る度に新たな発見のある素晴らしい内容となっています。ここではその内容を簡単に整理しますので、購入を検討されている方々の参考になれば幸甚です。なお、恥ずかしながら、筆者の環境ではDVD-ROMを見ることがまだできません。以下の記述はCD-ROM版に基づいています。DVD-ROM版では映像に若干の増補があるようです。記述の誤りや補足等ございましたら、是非ご一報下さいますよう、お願いいたします。


お子様の情操教育にも最適(^^)。

DVD-ROM(CHAN 55001)CD-ROM(CHAN 50001)

動作環境

※Windowsでは、最初にディスクを挿入すると、ショートカット作成のためのインストールプログラムが自動的に開始します。


内容

CD-ROMを起動すると、まず言語選択画面が出てきます(英・仏・独)。以下は英語版に基づいていますが、内容に差異はないはずです(未確認だが、差異があっては困る)。言語を選択すると、ファンファーレ(音量に注意)と共にタイトル・アニメーションが画面に表れます。続いて、導入のアニメーション(ナレーション付)が自動的に始まります(画面をクリック、またはスペース・バーを押すことでこのアニメーションをスキップすることができます)。アニメーション終了後、メニュー画面が表示されます。以下に、各メニューの内容について簡単に紹介します。

From the Author

導入のアニメーションです。BGMは、『人形たちの踊り』の第5曲「ワルツ=スケルツォ」です。

Understanding Myself

各年毎に、自身の筆による手紙・文章、他人がショスタコーヴィチについて書いた文章、写真、映像(一部)がまとめられています。“Archive”や“Film Archive”、“Commentaries”、“Works”等他のメニューとのリンクもしっかりとしていて、まさにこのDVD/CD-ROMのメインコンテンツと言うことができるでしょう。資料文書の分量はかなり多く、筆者もまだ全てをチェックしたわけではありません。既出の資料も少なくありませんが、グリークマンの書簡など日本ではまだあまり広く知られていないものも含まれています。何より素晴らしいのは、写真にしても資料文書にしても全て一次資料であること。資料の選択に編者の私見が反映されている可能性もありますが、少なくとも(筆者のような)一般の愛好家にとってこうした限りなく生に近い形の資料に触れることのできる意義は非常に大きいです。

Works

各作品のデータと音源、自筆譜の写真、関連記事がまとめられています。作品データの内容は、「献呈」「演奏時間」「初演」「国外初演」「自筆譜の保管場所」「初版」「初公開(映画作品のみ)」。基本的な情報は網羅されていますが、楽器編成は欲しかったところですね。また、Discographyへのリンクも張られています。もちろん、Commentariesへのリンクはばっちり。音源は、てっきりChandosレーベルのものばかりかと思いきや、さにあらず。初演者やそれに準ずる演奏者による貴重な録音が目白押しです。音源収録作品の選択方針はよくわかりませんが、よくチェックしておく価値は十分にあります。音源の演奏者等と自筆譜の内容について、別表にまとめておきました。演奏者名と録音年にはおそらく間違いと思われる記載もありますが、ここでは敢えてそのままにしておきます。

なお、詳細なデータが記載されているのは、作品番号のある作品だけです。また、全作品リストには、他人の手による編曲作品は含まれていない他、Hulmeのカタログとは多少異なっています。DSCH社の新全集の刊行リストに含まれている作品の中で、ここのリストに載っていないものもあります。

Archive

800枚以上の記録写真から成る写真集。“From Family Albums”と“Photographs and Documents over the Years”の2つに大別されています。やはり、後者に興味深い画像が多いですね。ショスタコーヴィチ本人もさることながら、彼と関わりの深かった人達の姿を見ることができます。また、当時の新聞記事等もふんだんに収録されています。もちろん自筆の手紙や初版譜の表紙等、何度見ても飽きないヴォリュームがあります(ロシア語に堪能ならもっと楽しいでしょうね)。ただ、「チェロ協奏曲第1番初演時のもの」とキャプションに表記されている写真、これは指揮者がスヴェトラーノフのようですので、第2番の誤りだと思います。ひょっとしたら、他にも年代等の誤認があるかもしれません。なお、右上の“P.S.”をクリックすると、スライドショーで写真を見ることができます(収録されている写真全てではありません)。

なおDVD-ROM/CD-ROM共に、“From Family Albums”の中でニーナが駱駝に乗っているページより先には、いくらクリックしても進みません(Windows、Mac共)。画像ファイルもそれ以上含まれていません。おそらくバグかと思われます。情報を提供してくださったKさん、どうもありがとうございました。

Film Archive

33(DVD-ROM)/15(CD-ROM)本のドキュメンタリー・フィルムが収録されています。もちろん、字幕付。“Understanding Myself”からも収録年に応じてリンクされています。このDVD/CD-ROMの中でも、最も多くの人の興味を惹くメニューでしょう。以下に、収録映像の概要をまとめておきます。色がついているのはDVD-ROMにのみ収録されているものです(情報を提供してくださったKさん、どうもありがとうございました)。

タイトル収録年この映像が収録されている他の映像作品備考
歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人」のリハーサル時、ネミーロヴィチ=ダンチェンコと。1933音楽記録映画『ショスタコーヴィチ』(監督:ゲンデリシテイン)
「バザール」1933
映画「司祭とその下男バルダの物語」の現存する1シーン。
歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人」モスクワ初演時の映像。1934
第2幕第5場、ジノーヴィ殺害の場面。
ピアノ協奏曲第1番第4楽章後半。ショスタコーヴィチ自身による演奏1940映画『ヴィオラ・ソナタ』(監督:ソクーロフ)指揮はガウク。
レニングラード包囲下での交響曲第7番(一部)の演奏。1941映画『ヴィオラ・ソナタ』(監督:ソクーロフ)
BS2音楽ドキュメンタリー 戦争シンフォニー〜ショスタコーヴィチの反抗〜(1999年、NHK-BS2)
第3楽章の一部をショスタコーヴィチがピアノで演奏した後、オーケストラによる音声に切り替わる。ニュース映画の一部。一説にはショスタコーヴィチによく似た俳優が演じているとも言われているが、真偽は不明。筆者には本人のように見える。
交響曲第7番初演前夜1942
短いコメントの後(字幕なし)、第1楽章のクライマックス部分をショスタコーヴィチがピアノで演奏する。襟元にはソ連の紋章が。
1942年11月29日、反ファシスト集会での演説1942映画『ヴィオラ・ソナタ』(監督:ソクーロフ)
BS2音楽ドキュメンタリー 戦争シンフォニー〜ショスタコーヴィチの反抗〜(1999年、NHK-BS2)
一部。他の映像作品では最後まで見ることができる。
最高会議幹部会メンバーとして会議の席上1942
音声なし
V. ネミーロヴィチ=ダンチェンコの葬儀にて1943
音声なし
モスクワの邸宅でピアノ三重奏曲第2番を作曲中のショスタコーヴィチ1944
一家団欒の風景の後、第1楽章主部の冒頭をピアノで弾く。
ボリショイ劇場で演奏者達を出迎える1947
音声なし
ショスタコーヴィチの音楽が批判された作曲家同盟の集会1948BS2音楽ドキュメンタリー 戦争シンフォニー〜ショスタコーヴィチの反抗〜(1999年、NHK-BS2)演説者はフレンニコフ。憔悴したショスタコーヴィチの姿が痛々しい。BS2ドキュメンタリーではフレンニコフの肉声を聞くことができるが、ここでは音声なし。
モスクワの邸宅にて1949
音声なし
スターリンへの祝辞に署名するショスタコーヴィチ1949
ショスタコーヴィチに続いて、フレンニコフとハチャトゥリャーンも署名している。
50歳記念式典でのショスタコーヴィチ1956映画『ヴィオラ・ソナタ』(監督:ソクーロフ)
50歳記念に集った客人に挨拶をし、前奏曲から1曲演奏するショスタコーヴィチ1956
音質劣悪
ブタペストの音楽学校を訪問1961
授業見学風景の他、「森の歌」第4楽章にて見送られる姿が収録されている。
Mmozhaisk Highwayの邸宅にある書斎にて1961
音声なし。机の上には同じ形の眼鏡がもう一つ。頻繁に掛け代えているところみると、老眼鏡か?
ソ連共産党への入党1961
音声なし。ハチャトゥリャーンの推薦演説(?)を最前列で静かに聞くショスタコーヴィチと、それを受けて自ら壇上で演説をする姿が収録されている。この時の写真は『ショスタコーヴィチ大研究』などでも見ることができる。
第2回チャイコーフスキイ国際コンクールにて1962
ニュース映像。授賞式の様子は、チェロ部門第1位のシャホフスカヤ。
演奏会場で、I. ショスタコーヴィチと1962
音声なし
交響曲第5番の演奏会にて、I. ショスタコーヴィチと1962
第2楽章。音楽に聴き入る聴衆の映像がメイン。
キルギスへの旅行1963
音声なし
「ピアノ五重奏曲」の演奏風景断片(作曲者とボロディーン四重奏団)1964音楽記録映画『ショスタコーヴィチ』(監督:ゲンデリシテイン)
ソ連邦最高会議の会合にてユーリィ・ガガーリンと1966
音声なし
レーニン勲章授与1966
音声なし。授与者はフルシチョフ。
オーストリア共和国から大名誉銀記章授与1967
ニュース映像。カラー。
第4回全ソ作曲家大会での演説1968

ロシア連邦共和国作曲家同盟第3回大会での演説1973
原稿を時折右手に持ち替えるものの、手が震えて握力もなく、まともに持てずに最後は落してしまう姿が哀しい。音声なし
第5回全ソ作曲家大会開会式にて1974
ニュース映像。
映画『ドミートリィ・ショスタコーヴィチ』からの断片。歌劇「鼻」1974映画『ヴィオラ・ソナタ』(監督:ソクーロフ)収録映像の中でも最も感動的な一編。イリーナ夫人、マクシームと並んでリハーサルを聴いている姿のなんと楽しそうなことか。ロジデーストヴェンスキイとの熱心な打合わせの様子も、このプロジェクトにかけたショスタコーヴィチの情熱と喜びがストレートに伝わってくる。映像の後半、延々と続く嬉々とした少年のようなショスタコーヴィチの表情には、涙を禁じ得ない。
映画『ドミートリィ・ショスタコーヴィチ』からの断片。「弦楽四重奏曲第15番」1974
第2楽章のリハーサル風景。演奏はタネーエフ四重奏団。
映画『ドミートリィ・ショスタコーヴィチ』からの断片。「ミケランジェロの詩による組曲」1974
シェンデロヴィチがショスタコーヴィチに左手で握手を求める姿が涙を誘う。若きネステレーンコの姿も見られる。

Discography

パリにあるショスタコーヴィチ・センターの学芸員E. Utwiller氏が編纂されたディスコグラフィ。編纂当時までの音源が完全に網羅されているわけではありません。恐らく、ショスタコーヴィチ・センターで保有しているもののリストなのでしょう。しかしながら、Hulmeのカタログに掲載されていない音源などもあるので参考にはなります。また、記載されているレーベル名/ディスク番号は必ずしも初出盤ではないようです。CDとLPの両方で発売されているものの扱いもやや不明確。Utwiller氏がフランス人なので仕方ないのでしょうが、曲名も含めて表記がフランス語しかないというのも、せっかくこれだけ凝った構成なだけにもったいない。何より上下方向のスクロールしかないので、大変見辛いです。ディスコグラフィ単独で使用するのではなく、“Works”で見たい作品を選択し、そこからディスコグラフィにアクセスするのが便利でしょう。

Commentaries

Understanding Myself”や“Works”と相互リンクされている“注釈”ですが、実に充実した人名辞典として重宝します。

@ Internet

ショスタコーヴィチ関連サイトへのリンク集。ブラウザが起動し、JSC Autopanのページにアクセスすることができます。僕のページ(英語版)もリンク集に掲載されていました(^^)。

Credits

文字通り、製作者・資料の出所・提供者等のクレジットです。


感想など

リリース前から関係筋で非常に話題になっていたこのDVD/CD-ROM。期待に違わぬ素晴らしい内容でした。資料集に徹底しているところが、変な先入観抜きにショスタコーヴィチの人生を描き出していると言えるでしょう。ベートーヴェン四重奏団との写真などは彼らの関係を窺わせる親密な雰囲気が漂っていて、個人的にはすごく気に入っています。また、各年および各作品毎に散りばめられている文章も充実していて、その時々の興味に合わせて読み返すことで常に新たな発見があるものと思われます。

ファンにとって嬉しいのは、ドキュメンタリー・フィルムがまとめられた“Film Archive”でしょう。既出の記録映画等に含まれていない初出(?)映像も多く、一部音声が欠落しているのは残念ですが、十分に見ごたえがあります。初出ではないものの、ピアノ協奏曲第1番を演奏するショスタコーヴィチの姿は何度見ても良いですね。

このDVD/CD-ROMのメイン・コンテンツは“Understanding Myself”と“Works”ということになると思いますが、特に後者の内容が素晴らしいと思いました。映画音楽にその映画のスチール写真が載っているのは嬉しいですね。これだけの量の自筆譜を(一部とはいえ)目にする機会は、一般の愛好家にとってはまずないことですし、収録音源の充実ぶりにも驚かされます。全てがSP/LP/CDで発売されたものかどうかは不明ですが、たとえば「ラヨーク」のモスクワ初演時と思われる演奏の一部や、入手困難な「第1軍用列車」、Hulmeのカタログには存在が記されていなかった「支配せよ、ブリタニア!」、「我が祖国に太陽は輝く」「交響的哀悼前奏曲」「ソヴィエト民警行進曲」のめったに見かけない演奏など、聴き逃すことのできない音源が満載です。また、他の演奏の選択のセンスも良く、十二分にショスタコーヴィチの音楽世界を満喫することができます。これで作品番号のない作品も詳細に網羅してくれれば言うことはなかったのですが、そこまで望むのは贅沢でしょうか。

Discography”にはやや不満が残りました。もちろん完璧を期すことは不可能に近いでしょうが、せめてレイアウトを工夫するだけでももう少し良い出来になったのではないでしょうか。一方、地味ながら“Commentaries”の充実度は特筆すべきでしょう。たとえばアトヴミャーンなどが漏れているのは残念ですが、これだけの内容を持つ資料にはなかなか巡りあえません。“@ Internet”のリンク集は、まぁ妥当な内容。自分のサイトが選ばれているのは、やはり嬉しいものですね。

全体のデザインも凝っていながら見やすいもの。リンクのありかも分かりやすく、とにかく試しに色々とクリックしてみると楽しいでしょう。

一般の愛好家にとっては限りなく初出に近い資料満載のこのDVD/CD-ROM。繰り返しじっくりと見ることで、常に新たな発見があることでしょう。ショスタコーヴィチの作品と生涯について一定以上の知識を持っている人にとっては、このDVD/CD-ROMを見ることで新たな知見を得られるだけではなく、自分なりのショスタコーヴィチ観を再構築できるものと思われます。これからショスタコーヴィチの世界に足を踏み入れようとする人にとっては、まずは写真やフィルムを眺めながら、収録音源に耳を傾けることをお勧めします。ショスタコーヴィチの創作活動は政治的な文脈の中で語られることが多いわけですが、このDVD/CD-ROMではそういう視点が適切に排されているのが何より好ましい。この厖大な資料集を見て、それから再び従来の評伝やインタビュー集などを目にすることで、より一層ショスタコーヴィチへの理解が深まるものと期待されます。

とにかく、この内容で5000円前後というのは非常に安い。このWWWページを見る程度の興味があるならば、絶対に買い逃すべきではありません。


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Last Modified 2008.05.14

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